3.05.2024

[film] Kaos (1984)

2月25日、日曜日の午後、BFI Southbankで見ました。

2月から3月にかけて、ここではTaviani兄弟とPaolo Taviani(1本だけ)の回顧上映をしていて、冊子とは思えない分厚さのプログラムが無料で配られて、Paolo Tavianiのトークも予定されていた(と記憶。やったのかな?)のだが先週お亡くなりになられてしまったのでしょんぼりしている。

彼の亡くなられた晩には丁度” I sovversivi” (1967) - The Subversivesの上映があり、棺桶を墓穴にどん! ってぶっこむシーンで終わっていて、ああ、って。常に死と隣り合わせにある夢とか記憶を描き続けてきたふたりだったなあ、と気づかされたり。

邦題『カオス・シチリア物語』は、公開時に六本木で見て、原作のピランデルロのことを知ったのもこれがきっかけで、数年前に翻訳本が出たときもすぐに買って読んで、ここ数年ずっと再見したい1本の上位にあって、今回の特集上映でもメインのビジュアルはこの作品のエピローグの少女が高いところで翼のように両手を広げて世界を見下ろしているあれで、2回ある上映のチケットはどちらもあっという間にSold Outしていた。みんなあの世界に浸りたかったのだと思う。

雄のくせに卵を温めてやがる、って捕まってよってたかって虐められ、首にベルを付けられたカラスがちりーんちりーんてベルの音と共に旋回しながら物語を拾って案内する、という導入から4つのエピソードとやや長めのエピローグ、188分あっという間。

L’altro figlio - "The Other Son"
14年前にアメリカに移住した2人の息子たちからの手紙を書いては送り – でも手紙の代筆がめちゃくちゃだったことが後でわかる - 彼らからの返事を路上で待ち続ける母の傍らには牛の世話をしながら彼女のことを気にかけている三男 - "The Other Son"がいた。母がどうしても彼に冷たくなってしまうその理由とは。侵略者に襲われた忌まわしい村の記憶 ~ 生首のサッカー。

Mal di luna - "Moonsickness"
新婚の夫婦がいて、全ては円満のようなのに、夫のほうが満月の晩になると豹変して狂ったようになるので、夫は妻に家から出るな、って命じて、かわりにその晩はハンサムなサロに妻の相手をさせようとするのだが…

淀川長治さんがこの映画の解説で、満月になると狂ってしまうのはわかる、と語っていてふーん、だったのだが歳とってその感覚がなんだかわかるようになってきたかも。

木に繋がれた夫が月に向かって吠えるとことか、吠えたてる犬に子猫爆弾をぶつけるとことか、素晴らしいシーンがいっぱいあるの。

La giara - "The Jar"
オリーブ畑のブラックな領主が、お金をかけてオリーブオイルを入れる特大の壺を作ってすげえだろ、って自慢していたらある晩にその甕がぱっくり割れちゃって、壺修理の達人が呼ばれて修理にかかるのだが、彼は自分を壺の中に入れたまま割れ目を塞いでしまって外に出られなくなり、でも領主は壺を割ることは許さん、ていうの。

Requiem
町から遠く離れた集落の村人たちが、自分たちの土地に自分たちの村の死者を埋葬する権利を貰うべく陳情直訴するのだが領主はこれを拒否して、拘束した村人たちを兵隊たちに村まで護送させ、そこで村人らが作り始めた墓地を壊そうとするのだが…

Colloquio con la madre - "Conversing with Mother"
老いたピランデルロが久しぶりに実家に戻ってきて - 馬車の御者はサロだった – しんとした家のなかでマルタ島に航海に出た時の思い出を見えない母に向かって語る。白い軽石の山の上にたって地面と海を見下ろした時の感覚が、いろんな土地、いろんな時代を巡っていった物語を改めて呼び醒す。

母子関係、夫婦関係、使役関係、死後の世界との関係、大昔の、どこかの土地での、一筋縄ではいかない関係の変転とその顛末を描いて、最後にそれがレモンの香りと鳥の目により彼方の空に散っていく。散っても残るものは、ある。

とうの昔に読んだ本、誰かに聞いた話、どこかで見た映画の欠片だけがあって、それがなんだったか十分に思いだせないでいたところのピースを繋ぎ合わせて形にしていく感覚、エピローグでピランデルロがああ、サロだったね! っていう思いだすときのあの感覚が再生される。

Taviani兄弟の他の作品でもそうなのだが、力強くストーリーテリングの力で引っ張っていくというより、次になにが起こるんだろう? という自在さに毛穴が端から開いていって、そしてほんとうにことが起こる!という瞬間の歓喜や失望に絶望、あれれ.. などに繋がっていって、これらを通してその世界に没入すると、とても近しい物語がやってくる。

そしてこれらはみんな亡くなってしまった人、どこかに行ってしまった人 - 死の世界を想うことに繋がっているのだと思う。こっちの世界がこんなだからって、行かないで! って死者を抱きしめようとする、そんな映画たち。


4月にはVíctor Ericeの特集が!

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