3月9日、National TheatreのOlivier Theatre、土曜日のマチネで見ました。
しばらくの間、演劇などを見てみようシリーズ。
脚本はTim Price、演出はRufus Norris。
英国のNHS - National Health Serviceを創った政治家 - Aneurin “Nye” Bevan (1897-1960)の生涯を振り返る - ところどころで歌や踊りが入ったり、そんなにシリアスで重くなく、でも軽すぎるわけがないドラマをMichael Sheenがすいすい引っ張っていく。自分の席からは見えなかったけどブラスバンドのような楽隊がどこかにいて、でも音楽が舞台を強く揺さぶることはない。
Nye (Michael Sheen)は最初から病院のベッドの上、いろんな医療機器に繋がれて妻Jennie Lee (Sharon Small)に付き添われて、意識があったりなくなったり夢のなかだったり、赤の縦縞のパジャマ一丁 - 彼の衣装はエンディングまでこれだけ - でウェールズの炭鉱の坑夫の大家族の10人兄弟(うち4人は子供の頃に亡くなっている)の6番目として生まれてから炭鉱で働いて組合活動を経て政治家になって、あとは妻Jennie - 彼女も政治家 - と出会って、戦争があって、など現在までを振り返っていく。
いろんな患者がいて制服のきちんとした医者やナースもいて、カーテンの仕切りがあって可動式のベッドは自在に動けて、アラームや呼び出しが頻繁に鳴ってせわしなく右左に動いていく病院/病室というのはセットの基礎枠としてはクールにふさわしくて、これがオフィスになったり図書館になったり審議の場になったり、スムーズにトランスフォームしていく。
Nyeの横たわる病院のベッドが起点、というのにはいくつかの意味があって、もう長くないけどここまで来ちゃったねえ、というのと、まだやることは沢山あるのだから早くここを出なきゃ、というのと、出るにしてもくたばるにしても縛られて動けないのはきついし勘弁して、っていうのと。こんなふうに分裂して引き裂かれた状態にある苛立ちや焦燥や居直り等を描くのにMichael Sheenの軽やかなステップと流れるような喋りが絶妙に効いている。パワフルで饒舌で(たぶん)寂しがりで、いろんな人の間を動き回って構ったり構われたりが大好きなひと。
始めはNHSのこともその設立の事情〜政治的背景や経緯も、なによりAneurin Bevanその人のことも十分に知らない状態で見てもだいじょうぶかしら? というのはあったのだが、ぜんぜんだいじょうぶだったかも。もう少し真面目にシリアスに訴えかける内容のものにすることもできたと思うが、その辺を軽めにしてあるのは賛否あるところかもしれない。
国民ひとりひとりの収入ある/ない、多い/少ないによって受けられる医療の質やレベルが違ったり制限が出てきたりするのはおかしいよね? 医療って、誰もが同等に知識を得る機会を持つことができる図書館のようにあるベきではないのか? 政治はそこに手を入れないといけないのでは? というそもそもの目線からNHSを構想して政治の現場、医療の現場それぞれからの嘲笑や大反対、圧力をひとつひとつクリアして現在の形にもっていくのって想像しただけで気が遠くなるのだが、彼はそれをやってのけた、と。
いまだにいろんなニュースのネタに定期的になっているように、NHSには賃金や過労や要員不足で問題がいっぱい、ずーっとあることは確かだけど、それでもこの仕組みを作って維持しているのってすごいことだよね、と思うし、コロナ禍での彼らの踏ん張り - あの時いたからよく知ってる - はまじであの時の英国を救ったと思っている。そう思って感謝している人は少なくないはず。
できればその辺 - Rise of NHSに限った流れと語りにすればもっとストレートで感動的なものにできたと思うのだが、父とのこと、妻とのこと、チャーチルとの駆け引きなど、いろんなことを盛りすぎて、さらに歌や踊りもあるのでややとっちらかったかんじになってしまったのは残念だったかも。Michael Sheenは文句なしだけど。
そして思いがいく先は、働かない奴、稼ぎのでない使えない奴らはこういう公共サービスを受ける資格ないとか迷惑だから自決すべきとか、そういう方向に向かいつつある今の日本の方なのだった。はっきりと教育の失敗だと思うのだが、国として劣悪で最低だし、とても恐ろしい。ムラで固まって他者に分け隔てなくやさしくできない社会ってどれだけ恥ずかしいことか、ってみんなが思うようにならないと。
もうじきライブ配信があるのでそのうちNational Theatre Liveにも来るのかも。なったらよいな。
3.18.2024
[theatre] Nye
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