9.19.2023

[film] Falcon Lake (2022)

9月14日、木曜日の晩、シネクイントで見ました。『ファルコン・レイク』

カナダ/フランス映画で、監督はケベック出身の俳優Charlotte Le Bonで、これが長編監督デビュー作となる。原作はフランスのBastien Vivèsによるバンドデシネ - ”Une sœur” (2017) -『年上のひと』(翻訳が出ているが未読)。2022年のカンヌの監督週間に出品されている。

冒頭、薄暗い水面の上になにか布に包まった死体のようなものが浮かんでいて、それがほんの少し動くので生きているのか、って。

13歳のBastien (Joseph Engel)が家族 - 両親+弟ひとり - で母の友人のLouise (Karine Gonthier-Hyndman)の一家が暮らすケベックの湖畔の家にヴァカンスでやってきて、しばらく滞在することになる。そこに向かう車中の様子から、Bastienはそんなに活発で快活な子ではなく、弟はまだ動物みたいなものなので、大人たちの間でひとり取り残されてしまうのかと思うのだが、家にはもうひとり、Louiseの娘で16歳のChloé (Sara Montpetit)がいて、でもBastienみたいなガキなんて相手にするか、というかんじで独りで平気っぽい。

なのでBastienは結局ひとりのまま、遊んで/遊ぼうよ、ってChloéに寄っていくほど子供でもないし、弟とだらだら過ごしていると、彼女はたまにワインを片手に原っぱに連れて行ってくれたり、近所のあたま悪そうな青年たちのハウスパーティに連れていってくれたり、家に戻ると彼の目の前で着替えだしたり髪を洗ってくれたり、そこらの男子は彼女に向かって欲情垂れ流しで寄ってくるようだし、自分の知らない扉の向こう側の世界をちらちら見せてくれる謎のお姉さん、的な振る舞いを見せて、でもそんなのに軽々しくついていってはいけない、と自戒するくらいの分別はある。この辺の無表情で不愛想な子供ら同士の微細な見栄の張りあいがおもしろいのだが、Chloéが幽霊や湖に浮いていた死体の話などをはじめると、それは(見たもの勝ちだし)ずるいや(.. でもすごいな)、ってなる。

ふたりの仲が親密になっていくことよりも、ふたりの間にはなにがあったり起こったりするのか、その距離感を手探りで追ったり確かめたりしながら無為の、無駄な日々と時間を過ごしていくようなところがあって、自分は自分が引き起こす痛みにどこまで耐えられるのか、って手の親指と人差し指の間のヒレの部分を血が出るまで噛んでみる - なかなか血を出すとこまではいかない - を何度も試してみたり、自分が一番嫌なシチュエーションてどんなのか、とか、初体験は? とかそういうとりとめないことを言ったりやったりするようになる。

そうやってつるんでいるうち、Chloéとはやったのか? っていう近所のガキの問いに「やった」と嘘をついたBastienはやがてChloéに愛想つかされて、そんな痛み – こういう痛みなのか – で彼のひと夏は一巻の終わり、それだけでも別によかったのかもしれない…

最初、これは湖底に引きこまれたり岸辺に打ちあげられたりする系のひと夏ホラーものなのだと思った。“Under the Silver Lake” (2018)みたいな。深度が見えないひんやりした湖の底にはぜったい蠢く何かがいる - それは彼らの皮膚の延長なのだ、とか終わらない永遠の夏はここでいつか見た死体と並んでこんなふうに、っていういつものかもしれないし、大人は(よいことに)ぜんぜん介入してこないし、彼らの仏頂面とふがいなさと並べてやりようはいくらでもあると思ったのだがなー。

全編16mmで撮影されたという湖畔の夕暮れや夕闇の景色はぼんやり粗くいかにもなかんじで、そこは賛否あるかも。藪の向こうの闇を照らすなにかとか方向感を狂わせるノイズっぽい音とか、もっと考慮できそうなところはある気がして、いやそうじゃなくて団子になってこんがらがったモヤモヤでいいの、だってそうなんだから、ぜったいに振り返らないんだから、などもわかるし。

そしてあのラストは、あのままあの後ろ姿を1分くらい流しておいてもよいのに、って少しだけ思った。やや漫画っぽすぎるかもだけど。

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