9.18.2023

[theatre] National Theater Live: Best of Enemies (2023)

9月11日、月曜日の晩、Tohoシネマズ日本橋で見ました。

Morgan NevilleとRobert Gordonによる2015年の同名ドキュメンタリー・フィルム(未見)を元にJames Grahamが脚本を書いてJeremy Herrinが演出をしている。Young Vicでの初演時はGore VidalをCharles Edwards が演じていたがここではZachary Quintoが。めちゃくちゃおもしろかった。

1968年の大統領選を前にTVネットワーク各局 - CBS、NBC、FOX、ABCはどうやって視聴率をあげるか策を練っていて、中でもスターアンカーマンもいなくて一番低迷していたABCは半ばやけくそで、共和党・民主党の党大会の中継に合わせて新右派の論客であるWilliam F Buckley Jr. と新左派の論客であるGore Vidalという、まったく噛み合うとは思えない組合せによるTV討論を仕掛けてみようとする。

プロポーザルを受けたBuckley (David Harewood)もVidal (Zachary Quinto)も互いにいま一番討論したくない嫌で嫌いな相手 = Best of Enemies だやなこったってはっきり言いつつ、ものすごい数の人々が視聴する放映の場で相手をとっちめてやるよい機会だから、と受けることにする(程度にはどちらも鼻高野郎であった、と)。

セットは真ん中にTV討論のセットがあり、その上階には3分割されたモニタリングルーム(スクリーンにもなる)があってプロデューサーたちが指示を出したり天を仰いだり罵声を浴びせたり、当時の制作現場のライブ感を示すのと、モニタリングはリアルタイムのスタジオだけでなく、当時のニュース映像なども映し出され、世論のなかで討論の置かれた場所を多層で映し出す。 更に、Aretha Franklin、Andy Warhol、Bobby Kennedyといった当時のアイコンを舞台上や袖でうろうろさせたり歌わせたり、時代の先鋭的な声を代表させるかたちでJames Baldwin (Syrus Lowe) を登場させて彼に人種差別のありようなどを語らせる - この補助線の使い方はとてもすばらし。

あくまでも来るべき大統領選の党大会で候補者を決める、そこに向かって世論に説得力のあるコメントをかましてブラウン管の前にいる市民をなるほどー、って思わせることができればよいだけなのだが、どうしても目の前にいるそれぞれにとって考え方は勿論、喋り方から目つきから経歴から何から何まで気にくわない天敵野郎になんか言ってやりたくて、ぶちのめして涙目にしてやりたくてたまらない相手を言葉でやっつけることに全霊を傾けようとしていて、そんなので常に一触即発状態でぴりぴりの現場や人間関係(Buckleyは彼の妻、Vidalは彼の恋人)がまずはおもしろくて、その雰囲気が伝わってくるだけでこの舞台に触れたお得感がくる。

後半は”The Trial of the Chicago 7” (2020)などでも描かれた荒れに荒れたシカゴでの民主党の党大会に続いたやつで、あの舞台裏とかどんなふうにTVから流されたのか、2人の論客の表情や言葉を通して触れる、それだけでどんなドキュメンタリーよりも(ベースはドキュメンタリーなので)おもしろいものになっている - 誰もがどっちがどうなるのかちっとも予測できないという点でも。

TVショウにおける討論がどれだけスリリングでそこでの小さな亀裂が致命的ななにかを視聴者=世界にもたらしてしまうことは”Frost/Nixon” (2008)などでも示されたとおりだが、ここでの戦いはそんなふうな勝ち負けが明確に示されないことがかえって面白さに拍車をかけている気がした。終わった後、どっちも血まみれなのにふふっ、ってかっこつけてなんか言おうとしていたり。

それでもこれがどこかの国の(すべてが)D級討論番組 - あきれたり気持ち悪くなったりですぐに切ってしまうのでほんとうはそうではないのかも知れないが - と桁違いの清々しさを湛えているように見えるのは、互いに言い負かすことを宣言しつつもそれが決して相手の言葉尻やロジックのようなところに向かわない、論敵が拠って立つところの世界観をリスペクトをこめて再構成して、相手の向こう側に広がるそれらに向かって何かを言わんとしているからで、それを可能にしているのは彼らの想像力と教養と呼ぶしかない視野の広さと厚さなのだ。それを育てる広義の人文学をこの国の政府が目の敵にしているのは、ほんとわかりやすくしみじみクズだわ、って改めて。

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