9月1日、金曜日の夕方、109シネマズ二子玉川で見ました。『アステロイド・シティ』。
いつのまにか、みんな大好きWes Andersonになってしまった感のあるWes Anderson作品。
音楽はいつものAlexandre Desplat、ちらりと出演もしているJarvis Cockerがぼそぼそ歌うのも聞こえてくる。
ありもしない国や土地、ありそうにない都市とか町とか村、ありそうでなさそうな建物や乗り物、ありもしない組織の縛りとか忠誠、ありもしない家族とその絆、ありえないしゃべりと会話の劇、すべてが作りもので、作りこまれたり加工されたりしていないものはない、犬やキツネだって英語を喋る、そういうカラフルでプラスチックな駄菓子の世界。ここの上で、一族郎党、犯罪、陰謀、戦争、冒険、救出、正義、友情、などを中心としたわざわざぎくしゃく拗らせた物語が展開して、そこで流れていく会話にも活劇にもなんの表も裏もなく、ただドミノ倒しのようにぱたぱた地平線の向こうまで走っていくのみ。こないだの”Barbie”の方がまだ現実世界とのリンクはあったし、キノコ雲は”Oppenheimer”のほうが本物ぽかったし(←そりゃそうだ)。
アメリカ合衆国50年代のいろんな夢や可能性や試行錯誤に溢れてきらきら(orどろどろ)していたTVドラマ制作の舞台の表と裏と結果と。モノクロ世界のTVホスト(Bryan Cranston)が劇作家Conrad Earp (Ed Norton)を紹介して、彼のタイプライターが叩きだした世界がカラーの紙芝居のような”Asteroid City”として広がっていく。
砂漠のまん中に町があって、長く奥にのびていく一本道があり、ガソリンスタンドとかモーテルとか、昔に隕石が落ちたクレーターの観光名所があって、近くでは原爆の実験もしているし、警察とギャングがカーチェイスもしているし。
ここで開かれる天才子供(スターゲイザー)の表彰式にやってきた、妻を失った(けどまだそれを子供たちに告げていない)元戦場カメラマンの父Augie(Jason Schwartzman)と天才息子のWoodrow(Jake Ryan)と妹たちの車が途中で壊れて、子供たちの祖父(Tom Hanks)が呼ばれて、謎めいた女優Midge(Scarlett Johansson)とその娘Dinah(Grace Edwards)が現れ、モーテルにはバスで来た小学生たちとかバンドとか、いろいろ集まってくる。
米軍のGibson将軍(Jeffrey Wright)が仕切るクレーターでの表彰式の上空にUFOが現れて宇宙人がすたすた下りてきて意味ありげに隕石を持っていって、Augieはその写真を撮るのだが、大統領と話した将軍は一帯を軍事的に隔離して大騒ぎになって…
最後は反乱だ一揆だって大騒ぎになるのはいつものことで、ただ眺めていればたのしー、しかなくてこれでよいのか、っていつも思うのだが、これはTVドラマの世界での出来事で、それを作っている側の、作者や演技指導する人たち、役を演じている俳優たち「現実」のことも出てくる層構造になっていて、更にはその成果をブラウン管を通して一家で見るであろう当時の人々もいるし - これらぜんぶ包めて – 50年代のアメリカの風景 - モノクロとパステルの箱庭を覗きこむようにして眺める。 映画でも同様の作り-作られる世界のありようを描くことはできる、のだろうが、TVは大衆文化のセンターにみっしり組み込まれる使命と期待を背負った魔法の器で、というあたりの広がりようが興味深い。ドラマ ”Asteroid City”に出てくる記号や意匠を掘っていくといろいろおもしろいのかも。
他方で、そうやって描かれた世界の完成(完結)度とか落ち着きのようなところ、あるいは映画の作劇の手癖、のようなところで今度のはよかったわるかった、などが語られて、いろんな芸達者な人々もいっぱい出ているし目にも耳にもやさしく楽しいからいいや、になる。今回だとやはりScarlett Johanssonが飛び抜けてすばらしく、彼女とBill Murray - 今回はCOVID-19で出れなかった - が絡んでほしかったなー、くらい。
おもしろいおもしろくないでいうとおもしろいし楽しいし、Wes Andersonがやろうとしていることも見えるし、それを実現できる才能も結果としてのクオリティもすごいと思うし、でもなんか、自分が映画に求めているなにかとは違ってきているような気もし始めていて、それなら自分が映画に求めているものってなんなのか、などと問い返したり考えたりすることもできるので、そういう変なかたちで彼の映画を見て笑ったあとに微妙に捩れたような顔になって穴から出てくるのがここ数作のー。
9.06.2023
[film] Asteroid City (2023)
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