5.01.2023

[film] Les passagers de la nuit (2022)

4月23日、日曜日の昼、シネクイントで見ました。
英語題は、”The Passengers of the Night”、邦題はいつもの恥ずかしい「パリ」縛りで『午前4時にパリの夜は明ける』 - 午前4時だと夏でもまだ暗いよ。

監督は”Amanda” (2018) が素敵だったMikhaël Hers、音楽はSuzanne VegaやJim Carrollと一緒に活動していたAnton Sanko。 予告と邦題だけだったら絶対行かないかんじのやつだったのだが流れてくる音楽のことを聞いたら、これは行かねば、になった。

いくつかの年で区切られていて、最初は1981年のパリ、大統領選(ミッテランのとき)で騒がしい町にTalulah (Noée Abita)がひとりやってくる。希望に溢れて、ではまったくなく夜の町を背後に不安と焦燥しかない目でこちらを見つめてくる。

次が1985年、Lloyd Cole and The Commotionsの”Rattelsnakes”にのって自転車を漕いでいく(←これこれ)Mathias (Quito Rayon Richter)と友達がいて、彼の母 - Elisabeth (Charlotte Gainsbourg)は別のだれかとくっついた夫と別れたばかり、眺めのよいアパートと子供たち - Mathiasと政治活動をしている姉のJudith (Megan Northam)は彼女についてきたものの、先が見えない不安からかよく眠れないし、そういう時に聞いていたラジオの深夜番組 - この映画のタイトル - のアシスタントとして夜のバイトを始める。

その番組は視聴者からかかってきた電話に大人のパーソナリティのVanda (Emmanuelle Béart)が落ち着いて応えてくれたりするもので、たまに常習の変態がかけてきたのを繋いでしまって怒られたりするものの、だんだん馴染んでいく。

そんな夜勤明けにElisabethは道端でぐったりしていたTalulahを拾ってアパートに連れて帰り、空き部屋とシャワーと食事を与えて、いられるだけいていいからね、とだけ軽く伝えて置いておく。

そこに同様にふらふら落ち着かないMathiasが絡んでみんなで映画を見に行ったり - “Birdy” (1984)を見ようとしたら開映時間過ぎで入れて貰えず、他の映画の終映のどさくさに紛れて(←やったことある)中に入ったら別の映画 - “Les nuits de la pleine lune” (1984)『満月の夜』をやっていて、見たあとで悪くなかったかも、あたしは好きかも、って言い合ったりのやりとりがたまんなくよい。

そうやってMathiasと少しだけ年上のTalulahはぎこちなく恋仲になる/なった - と思ったある日、Talulahは部屋を片付けてどこかに消えてしまう。なんだか幸せすぎてこわくなって … と当時のこういうドラマの主人公はよくいったもんじゃよ。

そして1987年(だったか?)、Elisabethはラジオでの仕事も落ち着いてVandaの代役で喋ったりができるくらいにはなり、昼間は図書館の窓口でも働くようになって恋人もできて、上向いてきたかな、っていう頃にアパートのロビーでぐったりしているTalulahを見つける。彼女の腕には注射針の痕がいっぱいあって…

この時代のドラマの常として、TalulahはAIDSに… っていう流れになるかと思ったらそちらには向かわず、Elisabethを含めて全員がぼんやりと酸欠状態で、そんなに動けずに頭のなかだけは大変なまま、もう少し小さいところに引っ越そうか、っていうあたりで終わって、そこらが弱い甘いっていう人もいそうだけど、これで丁度よいかんじもした。 みんなばたばた自分のことでいっぱいいっぱいで、そりゃ少しは他者のことも見るけど、でもそんなには無理、ごめん、って。 そういう人たちの真ん中に疲れきって、いつまでこうなんだろう? って座りこんでしまうCharlotte Gainsbourgがいる、というのがなんだかたまらない。

Talulahみたいに危なっかしい人、『満月の夜』のPascale Ogierみたいな人、岡崎京子の漫画に出てきそうな彼女たち、結構ふつうにいたなあ(いまもいて、見えなくなっているだけだろうけど)、みんなどうか無事でいてくれますように。っていう映画なのかしら?

Lloyd Cole以外に聞こえてきたのは、The Go-Betweens、The Durutti Column、The Pale Fountainsなどなど。 みんな酸欠金魚でじたばたするばかりだった彼ら。

映画は『満月の夜』の他には”Le Pont du Nord” (1981) 『北の橋』が映るし、”Va savoir” (2001)の屋根をあげるのとそっくりのところもある。どれもパリの町を彷徨っていくやつで、映画の中でも誰かが言っていたけど、繰り返し見たらもっと好きになる、って。ほんとにそうだからー。

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