9月16日、金曜日の昼 – Primaveraに行く手前 – Regal LA Liveというシネコンで見ました。客は5~6人くらい。 前回ここで見た映画は、”American Ultra” (2015)だった、たしか。
これもこの日の公開で、監督のTom GeorgeはBBC3で変てこコメディドラマ”This Country”を作っていた人で、これが長編デビュー作品となる。とっても英国ぽい犯罪・推理・バックステージ・コメディ。予告編を見た限りではとってもWes Andersonしている印象があったが、実際にはそんなでもなかった。1時間38分の小気味よい小品。
1953年、ロンドンのウェストエンドで、アガサ・クリスティー原作による舞台劇“The Mousetrap” – 『ねずみとり』の上演が100回を数えて世紀のロングランに向かってお祝いしようとしたところ(この後、連続上演の世界記録を作るのはみんな知っている)で、ハリウッドからこれの映画化のためにやってきた - 実は赤狩りのブラックリストに載って追い出された - 映画監督Leo Köpernick (Adrien Brody) - 最初のほうは彼が語り手 – がいろんなところに首を突っ込んで偉そうに意見したりして顰蹙をかっていると、いきなり衣裳部屋で何者かに惨殺されてしまう。
みんなに嫌われたり恨まれたりしているある人物がひどい殺されかたをして、つまり彼/彼女の周辺にいた全員が怪しい容疑者となり、最後に彼ら全員を一か所に集めて探偵が推理をして犯人を特定する – まさかあの人が(!)のどんでんになるお決まりの展開をバカにしているアメリカ人監督が映画化のために劇場関係者の間をうろつくのを誰もがうざったく思って、脚本家のMervyn (David Oyelowo)とも喧嘩ばかりしているし、劇場主(Ruth Wilson)らも追い払おうとしているしで、そういうところで本物の殺人が起こってしまう、という設定からしてメタな犯罪/推理もの、というか - あんまり書いてしまうとおもしろくなくなるので書けない。
こうして現場に現れたのがコートと脚を引き摺る警視のStoppard (Sam Rockwell) – Tom Stoppardから取られているそう - と部下で制服をかっちり着こなす生真面目な警官のStalker (Saoirse Ronan)で、まずはSavoy Hotelに滞在していたKöpernickの部屋を漁って、そこから後半はこのふたりがでこぼことんちんかんなやりとりを繰り返しながら現場や人々の間をうろうろ嗅ぎまわったり突撃したりしていくのが楽しい。
Stoppardはがさつでてきとーで歯医者に行くといってはパブで飲んでいたり、映画おたくのStalkerは言われたことをどこまでも生真面目にやり続ける – Wes Andersonのかんじがあるとしたらこの辺の執拗な漫画っぽさ – 犯行に至るまでの動機や恨みやノワールはとりあえず置いておいて – だろうか。そうやって醸し出されるどこから見ても英国としか言いようのない全体の雰囲気がたまんない。人によるのかもだけど。
登場する役名には実在した人物とかアガサ・クリスティーの元夫とかいろいろ出てくるし、警察は“10 Rillington Place”のあの連続殺人で忙しかったり、『ねずみとり』の劇構造や英国の犯罪史や犯罪小説やクリスティーのマニアの人が見たら更におもしろくくすぐられる発見があるに違いない – そういう人からすれば今作の設定やトリックはおもしろくもなんともないかもだけど。でも、そうでない自分にも十分におもしろいものだった – 少なくともKenneth Branaghの最近のあれよりは断然。 Daniel Craigのあれとは.. どうかしら?
タイトルは童謡の”Three Blind Mice” - 変な歌 - の一節から取られたそうだが、わたしはこのタイトルを聞くと、New Musik(バンド)の”They All Run After the Carving Knife"のリフレインが鳴りだして止まらなくなる。なった。
俳優陣は全員揃ってクセのある変なキャラクター - という設定なので、Adrien BrodyもSam Rockwellもその線でとっても怪しく臭すぎることを期待通りに楽しそうに演じてくれるのだが、動きとかいちいちおもしろくてたまんないのはSaoirse Ronanで、この人、もっとこういうのをやったらいいのに、って思った。このコンビ - Sam RockwellとSaoirse Ronan - で続編 – やはりメタ犯罪もの – TVシリーズでもいい - が見たいな。
R.I.P. Anton Fier..
ある時期の東海岸を象徴するビートを刻んだドラマーでした。最後に見たのはThe Golden Palominos(の何度目かの再結成)だったか.. ありがとうございました。
9.22.2022
[film] See How They Run (2022)
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