9.01.2022

[film] 春光乍洩 (1997)

8月27日、土曜日の午後、『WKW4K ウォン・カーウァイ4K 5作品』をやっているシネマート新宿で見ました。

この特集、ここまでで8/23に『重慶森林』 (1994)を、8/24に『花様年華』(2000)と見てきて、どの回もびっくりするくらいいっぱい入っているのに、あんなよい音で気持ちよいのに、なんでたったの5作品しかやらないの? 『阿飛正傳』(1990) も『東邪西毒』(1994)も『一代宗師』(2013)も見れないのってなんで?(見たいよ)

WKW4Kは2021年の2月頃にBFI Playerでひと揃え配信していて、その時にも少し感想を書いたので今回はこれだけ。(でも、これだけ人が入っているのを見ると、これっていったいなんなのか? って書きたくなるねえ)

原題を翻訳にかけると”Springtime”、英語題は”Happy Together”、邦題は『ブエノスアイレス』。欧米では”Happy Together”で通っていて、同タイトルの曲も主題歌のように流れているし、邦題に配給会社の大好きな用語「幸せ」を堂々と使えるのに、なんでここだけ「ブエノスアイレス」? マヌエル・プイグの『ブエノスアイレス事件』を意識したのかもしれないけど、なんで?(やーなかんじ)

冒頭は粗いカラーで、入管でのパスポートのやりとりがあって、モノクロでウィン(Leslie Cheung)とファイ(Tony Leung)のセックスシーンがあって、でもふたりの仲はうまくいかないようで、イグアスの滝 – ここもカラーで瀑布の圧巻の映像&背後にCaetano Velosoの“Cucurrucucu Paloma”が流れる - に車で行こうとして道まちがって仲たがいして(などがファイの語りで綴られる)。 帰国する金もなくなったのでファイはタンゴバーのドアマンの仕事をして、仕事をする彼の脇を明らかに男娼みたいななりのウィンが通り過ぎて、彼は思わせぶりぶりに何度も「やり直そう」ってファイに近づいてきて、ファイは餌だけあげたりタバコだけあげたり突っぱねていたのだが、ある日喧嘩したのかぼろぼろのウィンが転がりこんで、仕方なくアパートに寝場所を作り、料理を作ったり介抱して、でも念のための腹いせにウィンのパスポートを隠してしまう。

ファイはドアマンから中華料理店から屠殺場まで、帰国の資金を貯めるべくバイト先を転々と替えていき、中華料理店にいる時に若者チャン(Zhāng Zhèn)と知り合う。チャンはウィンと比べると雲泥のよいこなのだが、その時のファイは野良猫ウィンを傍に繋ぎとめておくことで精一杯なのだった。

ゲイの恋物語としてはものすごく粗く汚く乱暴に(わざと?)無造作に作ってあるようで、「やり直そう」も” Happy Together”も白々しくて「うそつき」しかなくて、うそが覆る可能性もありそうでないし、でもそうやって引っ掻いてどつきあうふたりを「しょーもねえなこいつら」って見ていくうち、恋がぽつんと浮かんだり – ふたりでタンゴを踊るとことか、最後にファイがひとりイグアスを訪れてほんとうに滝にぜんぶ流しておわる(ように見える)ところがあればよいのだと思った。 『恋する惑星』でフレームにふたりが入ってThe Cranberries(のFaye Wongカバー)ががーんて押し寄せる瞬間から始まるのが全てで、部屋掃除などはなんかどうでもよくなるのと同じように。

映画は終わりの始まりから始まって、終わりがほんとに終わって始まりが始まる(ファイが香港のチャンの実家を訪ねる)ところで終わる。こんなふうに地球は反対側に来ても丸く、回っているよ、って。

あとはWKWどれもだけど、まんなかのふたり - Tony LeungとLeslie Cheungの服とか布団の汚れとかカメラの揺れ具合 - Tony Leungの白ブリーフとLeslie Cheungの血で汚れた包帯と - をずっと見ていられるので、それだけでいいの。そこがよくない人には耐え難いのかもしれないけど。

個人的には、90年代のグランジで泥を被ったあと、オルタナの下痢(期限切れパイン缶を食べた金城武)を経由して、それでも残ったどうしても落ちることのない生の汚れ(どうしろっていうのか)、みたいのが現れている印象がある。

90年代の真ん中くらい、ブエノスアイレスには仕事で何度か行った。一度NYからの日帰り - 夜行で飛んで朝に着いて一日仕事して晩に戻る – をやろうとして失敗して、深夜で宿が取れなくて$20くらいの安宿に泊まったことがある。その時の夜の路地のかんじ、宿のぼろくていかがわしいかんじ、を思い出した。本当にあんなふうなのだが、素敵だったなー。また行きたいなー。

Caetanoの歌う“Cucurrucucu Paloma”って、”Moonlight” (2016)でも決定的なシーンで流れたけど、しみじみ必殺だねえ。なんであんなに滝みたいに - 滝の轟音を貫いて - 来るのか。


Numeroから出たBlondieの箱がきたので聴かねば。CD3枚組のには”Dreaming”が入っていなかったので、8枚組のにしたの。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。