9.09.2022

[theatre] National Theatre Live: Henry V (2022)

9月4日、日曜日の午後、Tohoシネマズの日本橋で見ました。NTLの新しいのがかかると必ず行くようになってしまった。

今年の3〜4月にロンドンのDonmar Warehouseで上演されたもの。原作はシェイクスピアの史劇 – “Henry V” (1599)、演出はMax Webster。 最近の映画だと”The King” (2019)でTimothée Chalametが演じていたヘンリー五世を、この舞台ではKit Haringtonが演じていて、設定は現代に置かれている。

冒頭にベンヤミンの『歴史の概念について』(たぶん)にある“There is no document of civilisation that is not also a document of barbarism”が引用されている。「文明化の産物で野蛮の産物でなかったものなんてない」って。

そして現代の若者としてミレニアム世代、非白人で多国語を操るジェンダーレス(に見える) - Millicent Wongが語り部として登場する。あとは舞台上の人物に紛れる形でコーラス隊が静か目に歌ってくれて、節目節目で厳かな聖性、のようなものを演出してくれる。 

最初はクラブで遊んで渡り歩いてゲロ吐いたりうだうだ騒いでやりたい放題やっているHenry V (Kit Harington)が紹介される。彼だけじゃなくて周りにいる仲間たちも酒場にいるやくざみたいのばっかし。

そんな中で困ったフランスの件で判断を求められて自分がリーダーとして正面に立たなければならない局面になったらHenryはがらりと変わって、周囲も驚いて戸惑うのだが、フランスに対して毅然とした対応と交渉をするようになり、遊び仲間とは縁を切り – というか周囲にいたごろつきがそのまま軍に入り - 内部の緩んだ連中も粛清して、全体としては目を見張るような統率力を発揮するようになる。

この辺は現代でも、というより現代に当てはめた方がよりわかりやすいのかも。若い頃はしょうもない遊び人で羽振りよく気前よくめちゃくちゃやっていた(仲間内では人気ある)あんな奴が、リーダーとか役職を与えられると人が変わったようにその役割をかっちりこなすようになって人望を得て、横から不祥事で刺されない限り一気に上まで昇っていってしまうような。(いろいろ見てきた)

後半の舞台はほぼ戦場に移って、全員ぱりっとした軍服で銃を持って行進して、英国軍は数からも劣勢が伝えられて疲弊したりする場面も出てくるものの、士気を落とさずに前に進んだり、前線の女性兵士と身分を隠して賭けをしたり、リーダーとしてフロントで見事な働きを見せて、フランスとの交渉も交渉術のようなとこも含めて鮮やかに捌いて、結果英国を逆転勝利に導く。戦術の勝利、というよりも(彼の)リーダーシップがもたらした勝利、のような描き方。部下を率いるHenry Vの立ち姿は現代のゼレンスキー大統領のそれに被る - 偶然だろうけど。

反対側のフランス側の様子も描かれるが、少なくとも王室内部についてはものすごくタカを括ってて行儀も悪くてガサツでレベルも低くて、これじゃやられるだろうな、という描き方にしかなっていない。で、負けたのでKatherine (Anoushka Lucas)は英国に貰われてしまう。

この辺は現代に置いてみると強引な企業買収とか横取りとかその辺だろうか。背後ではすごい労力とか血が流れたり注がれたり鬱になったり過労死したりの仁義なき戦いなのにどこまでもそうは見せないスマートさがあって、それもまた上塗られた野蛮だよなー、やれやれって。(いろいろ見てきた)

という、全体としてはシェイクスピアも英仏間の史実もあまり関係なさそうな、現代における戦いや諍いがどういう人物によってどんなふうに仕切られて決着してしまうのか、というところにヘンリー五世のお話をもってきたらはまってしまったかも、というかんじで、ここにウクライナの件も重ねてしまうと、歴史を貫いてきた暴力のありようなんて、ずっとこんなのだったのだなあ、って。

“House of the Dragon”も「指輪」の新しいのも見れていないのだが、いまだにこういうのが受けてしまう背景って、なんなのか、結局パワーの源泉みたいのを謎めいたカリスマとか魔物的ななにかに求めてしまうのだろうか、あんまよくない気がするけどなー、って。


エリザベス女王が亡くなった。わたしが英国周辺の文化に興味をもって(自国のそれよりも)掘ったり見たり聴いたりするようになったおおもとにこのおばあさんがいたことは確かで、今回のことをきっかけに良いこと悪いこといっぱい出てくるのだろうが、わたしはこのおばあさんのことがなんだかとても好きだった。
王様が替わるなんてこと、生きている間にそうあるものではないだろうから、見ておきたい。
(郵便ポストも新しくなっていくんだろうな。先代の王の時のポストを見つけるのが好きだった)
チャールズの方はちっとも好きではないので、彼の王国が今後どうなっていくのかは少し遠目で。
ご冥福をお祈りします。ばいばい。

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