8.18.2022

[theatre] National Theatre Live: Prima Facie (2022)

8月9日、火曜日の晩、Tohoシネマズ日本橋のNTLで見ました。

Harold Pinter Theatreで上演されたJodie Comerさんのウェストエンドデビューとなる一人芝居。原作はSuzie Miller、演出はJustin Martin。音楽はSelf Esteem (Rebecca Lucy Taylor)。

Harold Pinter Theatre、最後に行って見たのはTom Hiddlestonの出た”Betrayal”だった。
ロックダウンの時には入り口がやけくそのようにテープぐるぐる巻きだったことが思い出される..

これ、ぜったいものすごく必見なのだが人によって内容的にはきついところもありそうなので、上映されるところにはカウンセラーの人が待機していた方がよいかも、と思った。

Tessa Ensler (Jodie Comer)は法廷弁護人(barrister)で性的被害を訴えられた男性の弁護を中心にやっていて、冒頭には彼女の活動ぶりがスポーツの実況のようにかっこよく華々しく描かれる。ロジックも振る舞いも鉄壁で、競争心たっぷりで自信も勢いもあって無敵で、その起源はワーキングクラスからケンブリッジ大学のロースクールに入った頃にまで遡って語られる。温室のパブリックスクールで育った坊ちゃん嬢ちゃん達とは違うんだなめんな、って。

最初のパートで紹介される法廷における彼女の「手口」 – 訴えられている性的暴行はあくまで仮説であり、被害者は「被害者とされる人」であり、実際の真実というよりも証明可能な「法的真実」の正当性が優先される世界なので、そうやって「被害者」の沈黙や説明の穴を突いて(訴えられた側の)勝利に導く。そうやって法的には被害者とされずに消えていったJennaという女性(空っぽの椅子で表現される)のケースとか。

その前途洋々怖いものなしの流れのなか、残業後にオフィスのソファで同僚の弁護士とセックスして、彼とはいいかんじかも、って次の機会にはもう少しおしゃれしてパブで強めの飲酒をして、今度は彼の家に行ったところで気持ち悪くなってトイレで吐いてしまい、ぐったりしたところで彼にベッドに運ばれて、気分悪いし嫌だというのに彼はのしかかってきて…

翌朝になって、ショックでぐらぐらしながらこれは合意のないレイプだ許せない、って病院に行って警察に行って、でもこれを自力で法廷に持っていくにはここから数百日を要して、彼女が原告となる法廷での対決シーンが後半。

被告の彼だってもちろん凄腕の弁護士、彼の家族一族全員も弁護士で、こういう場合のこちらの打ち手も攻め筋もぜんぶお見通しだし、彼女にだって不利有利は十分にわかっているし、法廷にいるのもほぼ全員男性、そういう状態で彼女はどうやって戦うのか勝ち目はあるのか。

勝ち負けがどう、ということよりも、どうやったら勝てるのか、とかよりも、この法廷の場でのやりとりや法理のありようが被害者である女性にどれだけ不利で理不尽な負荷やフラッシュバックの苦痛を強いるものなのか、裁きの視点がいかに「正常」な男性の立ち位置に置かれたものなのか、を彼女の怒りと絶望と共に明らかにしていく。

とにかく、法廷の場で女性の側からそれはレイプ=犯罪だった、と告発するためにはそこに当事者間の合意がなかった、ということを証明する必要があって、でもそんなの男性側は「少なくとも拒否されなかった」って言うだろうし、女性側は酔って気持ち悪かったしそれどころじゃないし明確に憶えていたり証拠として残していたりするわけなく - 助けを求めて叫んだり抵抗して戦ったりする、わけもないし - そうすると疑わしきは罰せず、の原則で相手はほぼ自動でシロになってしまう。これが法廷における「真実」のありようで、これってあまりに男性にとって都合のいいように - 傷を負った女性が泣き寝入りするしかないように – できていないか、って。これが公演のサイトのトップに出ている数字 – 告訴したうちの3人に1人が途中で取り下げている – にも表れている。 単純にこわい。  https://primafacieplay.com/

これを無反省に、そういうものだから、って放置しておいてよいのか? よくないに決まっている。法律って何を守るものなのか? 法廷って誰のためにある、何を裁くものなのか? 等々。
“MeToo”だって最初は無理だ無謀だ、って散々言われたけど少しづつ変わっていったのだし。

そういうことを始めると男性側はなんでもかんでも加害者として告発されまくるから、とかクズみたいにわかりきった理屈を百も並べて必ず抵抗してくるけど、一度逆の立場になってみればいいんだわ、って強く思う。

あとこれって、絶対男性が – 特に法曹関係者が見なきゃいけないやつだと思うんだけど.. 見ないよねえおそらく。日本なんて、伊藤さんの例を見たって、ここに関してはまったく法治国家じゃないわ、って思うもん。

Jodie Comerさんはすばらしい。この勢いのまま”The Last Duel” (2021)の裁判シーンも彼女中心にして撮り直してほしい。

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