8.09.2022

[film] 女の座 (1962)

7月31日、日曜日の午後、新文芸坐の宝田明さん追悼特集で2本見ました。Cary Grantの特集を見ているかのような安定感。

接吻泥棒 (1960)

監督は川島雄三、原作は石原慎太郎 - 何度か「原作者」として画面にも出てきて笑わそうとしているのだろうがちっとも面白くない。脚色は松山善三。

ボクサーのチャンピオン高田明(宝田明)がいて、ぶいぶいでバーのマダムの新珠三千代とデザイナーの草笛光子とダンサーの北あけみの3人と同時に付きあって行ったり来たりしていて、明が車で急いでいるときに音楽会に向かおうとしていたお嬢さま女子高生の美恵子(団令子)の車と衝突事故を起こして、気絶した美恵子に口移しで水を飲ませている写真を撮られてしまい、それが彼女の学校でも愛人仲間の間にも波紋を起こして、ていうドタバタコメディなの。

ボクシングのシーンとかもう少し真面目にやれば、とか、女性たちのヒステリックな取っ組みあいとか美恵子の子供みたいな描きかたとか、やがて明らかになる石原慎太郎の女性蔑視目線がこの時から既にありありとうかがえて、ちっとも笑えないのだった。当時のってこんなのばっかりだったのだろうが。


女の座 (1962)

監督は成瀬巳喜男、脚本は井手俊郎と松山善三の共同。↑の後に見るととてもたいへん落ち着くかんじ。

昔からある石川屋っていう荒物店を中心にした家庭ドラマで、父の金次郎(笠智衆)が倒れて療養中で後妻のあき(杉村春子)が傍らにいて、前妻との間の長女松代(三益愛子)は近所で下宿屋をやっていて、その夫の良吉(加東大介)は女性とどこかに消えたりして戻ってきて、生け花教室の先生をしている次女の梅子(草笛光子)はシングルで、次男の次郎(小林桂樹)と蘭子(丹阿弥谷津子)の夫婦は近所でラーメン屋をやっていて、四女の夏子(司葉子)がそこを手伝ったりしていて、五女の雪子(星由里子)は映画館の切符売りをしながらラーメン屋にも顔を出していて、ひとりで荒物店の店先に立つ長男の未亡人芳子(高峰秀子)は一人息子の健(大沢健三郎)だけがよりどころで、あとは金次郎が倒れたのを聞いて九州からは三女路子(淡路恵子)と夫の正明(三橋達也)が上京してきて、なんだかんだ誤魔化しつつそのまま居候してしまう。

あとはラーメン屋の常連で気象庁に勤める青山(夏木陽介)が、夏子とどうなるか – でも夏子にはお見合の会社員も現れたりとか、松代のところに下宿してきた六角谷(宝田明)という若者はあきが最初に結婚していた相手との子であることがわかって、話とか趣味があうので梅子とよいかんじになるのだが六角谷は芳子を好きになって、とか。

『娘・妻・母』(1960)と同じように戦後の大家族を構成する人々のだれそれ間の位置関係 – 亡くなっている人も含めた - がいろんな会話の流れのなかで説明されたり物語のなかで動き始めるまでが楽しくて、本だとページを戻したりして追いそうなところを、どうやっているのか、魔法みたいだな、とか思ったりする。ストーリーが転がっていかなくても、そのやりとりを通して誰かがふくれっ面をしたり溜め息をついたり奥に引っ込んだりするだけでなんだかぞくぞくしてここだけでいいや、って思ってしまったり – 甘すぎかしら?

全体として、お約束のように男共はディザスターとしか言いようがない生産性マイナスのどうしようもないのばっかりが見事に揃っていて、笠智衆は転がったままほぼなにもしないし、加東大介はろくでなしだし、小林桂樹はラーメンしか作らないし、三橋達也は遊び人だし、夏木陽介は変人だし、宝田明は詐欺師だし、夏子のお見合相手の会社員はブラジルに行くというし、最後の頼みの綱の芳子の息子は事故(自殺か?)で… これも毎度のことのように高峰秀子がかわいそうすぎで。

この辺が小津の家族ドラマを見ていて感じる辛さ(あくまで個人の感想です)とは一線を画していて、見るべきところが違うのかも知れないけど、とてもおもしろいし好きなところ。「女の座」を同性異性間で争ってどうこうするドラマ、というより「女の座」的な場所というかありようってこんな場所と時間と共にあるのだ、ということを静かに示す、それだけの話なのかもしれないのに。

それにしても、『接吻泥棒』から続けてみると、草笛光子が宝田明に迫っていく、というところは同じでも、ここまで違うものになるのか、宝田明の複雑(そう)でちょっと狂った静けさに解れが見え始めるところに走る緊張、同様に溜めこんでいた何かを振り払う - 途端に輝きを増してくるかのような草笛光子の動き - 彼女が玄関に入ってくるところだけでもなんかすごいし。


今日は、Olivia Newton-Johnと中井久夫と三宅一生とLamont Dozierが亡くなった。 長崎でも。

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