8.10.2022

[film] Mogambo (1953)

7月30日、土曜日の夕方、シネマヴェーラのジョン・フォード特集で見ました。

やはりClark Gableが主演したVictor Fleming監督による”Red Dust” (1932) –『紅塵』のリメイクだそう。この時の相手役はJean Harlowで舞台はインドシナだった。原作はWilson Collisonによる戯曲。

邦題は/も『モガンボ』。 これ、虫の名前でも料理の名前でもなく、最初の予告では“The Greatest”ていう意味だと説明されていたらしいが、ほんとはLAにあったナイトクラブの名前の一部を変えただけの、べつになんの意味もないものなんだって。

そんな、なんの意味もないタイトルがテクニカラーで、でかでかと表示されて、でも舞台はアフリカらしいしポスターには美男美女が描かれているのでなんかあるのかも、って引き摺りこまれる。アフリカのジャングルの奥地とか湿地帯とか砂漠とか。

この舞台はジョン・フォードが描いてきたアメリカ西部とか大平原とは同じなのか違うのか? ふだんJack BlackやDwayne Johnsonなんかが出てきて逃げたり隠れたり大騒ぎで目指したり冒険したりするあの場所とも違うようだし、いったい何が/何を起こすことを期待されて設定された場所なのだろう ?
(たぶん、あんなふうなAva Gardnerが出没する、それだけの土地としてー)

ケニアで、珍しい動物を捕まえて動物園におさめる仕事のために現地でずっと暮らしているVictor Marswell (Clark Gable)がいて、黒ヒョウが出たとか、なにかが罠にかかった、って声がかかると仲間とそこに赴いて捕まえて檻に入れて依頼された国に向けて発送する。

ある日、アフリカには何の縁も興味もなさそうなNYの社交界からEloise Kelly (Ava Gardner)がNYで暮らすそのままの恰好 - すばらしいコスチュームたち - で現れて、インドの王族だかの誰かとここで落ち合う約束をしたのだと言うが、彼はもう帰ってしまっていたので、damn shit って戻ることにするのだが、なんだかんだ起こって戻ることができない。

もう一組、英国から新婚の研究者(は夫の方)- Linda (Grace Kelly) & Donald Nordley (Donald Sinden)の夫婦が野生のゴリラを見て捕まえにやってきて、着いた早々に夫の方が熱だして倒れて、夫婦は一部屋占有するのでEloiseはVictorの部屋に追いやられて、そうやって始まるどろどろにもrom-comにも向かわない、獣にも人類にも寄らない男女のドラマで、アフリカの辺境なので出ていくのも逃げるのも戻ってくるのものたれ死ぬのも勝手なところに、現地の異文化とか自然とかいろんな動物たちが絡まったり挟まったりしてくる。解き放ったり抑止したりするものがなにもないどうぞお好きに、の世界 – そこらの動物たちはそうやって暮らしている「自然状態」で容姿もプライドも地位もそれなりに満たされている/きた主人公たちはどんなふうに恋に向かっていくのかいかないのか。

というテーマがあるのかないのかすらよくわからない、極限状態とは異なる、でもそんなにまともではない - 神も悪魔も法も道徳も慣習も家族もついてこないし従う要請もされない環境で、この状態で、意味不明のタイトルが地平線上に浮かぶ。

Clark Gableはほぼなんもしない、僻地での駐在が長すぎて性格が歪んでしまった鼻持ちならないやな男(よくいる)の役で、あのまま猛獣とかに喰われちゃえばよかったのに、くらいで、メインはふたりの女性を見せるだけ、となるとやっぱりAva Gardnerのかっこよさに痺れるしかない。ほんとここだけと、あと動物たち。

この3年後の、あの歪んだ変てことしか言いようがない『捜索者』(1956)の心象風景ってここで描かれたアフリカの変奏なのではないか、という気がしないでもない。理解しようがないなにかに触れて、帰属とか理解とかを諦めた男が捜し始める「なにか」とその背後にひろがる”Mogambo”。

あとなんか、五所平之助の特集で見た井上靖原作で佐分利信がまん中にいるやつ - 『わが愛』(1960)とか『猟銃』(1961)とかを思い出した。どこが魅力的なんだかちっともわからない佐分利信の周りに決して幸せになれるとは思えないのに女性たちがなんとなく傍にいて暮らしてて、それでも全体としてあんまし幸せにはなれないようなやつ。なんとなくだけど。

ドラマとして、というよりそういう事態や状態はありえて、映画はそういうのも当然、あるものとして、ある種の驚異のように描くのだ、とか。


昨晩寝る前にThe PoguesのベーシストDarryl Huntの訃報を知る。初来日で見たときからステージの上を軽やかに駆けていく彼のベースがだいすきだった。RIP.

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