8.05.2022

[film] Boiling Point (2021)

7月27日、水曜日の晩、ヒューマントラストシネマ有楽町で見ました。

邦題は『ボイリング・ポイント/沸騰』。ロンドンの人気エリア(ってどこさ?)にあるレストランのクリスマス前の金曜日の修羅場となったひと晩を全編ワンカットで撮ったもの。最近だと“Birdman” (2015)とかあって、この撮り方が描こうとしているテーマとどう絡んでどこまで貢献しているか、だと思うのだがこいつはどうか?(あんまし.. かも)
このやり方でいちばん好きなのは『エルミタージュ幻想』(2002)、かなあ。

レストランの名前は”Jones & Sons”、シェフのAndy Jones (Stephen Graham)が遅刻して開店前の職場に現れた時には、衛生局の検査官が衛生状態の定期検査で改善ポイントあり(→減点)の指摘をして(あの慇懃無礼な口調、たまんない)あーあ、になっていて、Andyも言いたいことはあるものの、遅刻して現場にいなかったのだし、家庭内で気にかけていることがあるようで頻繁に電話を掛けたりしている – 彼のこの状態はこの後もずっと続く。

オープンしてからも – ワンカットで撮っているけど撮られる側の時間の流れはそこに同期していない – 人種差別野郎のテーブルがあったり、プロポーズしようとしているカップルがいたり、アレルギーの情報が厨房に伝わっていなかったり、「インフルエンサー」がやらしく注文つけてきたり、Andyの恩師であるセレブシェフAlastair Skye (Jason Flemyng)がフードクリティックを連れてきていたり - 君のとこを応援しにきたんだって言いつつ注文を - 厨房の方では遅刻してきて仕事しない奴、持ち場を変えられて戸惑っている人、袖をまくりなさい、ってまくってみるとリストカットの痕だらけで気まずくなったり、チームとして簡単に動いてはいなくて、Andyはまとめ役として辛抱強く切れることなく対応していくのだがずっと中味のわからないプラボトル(中身はアルコール)を口にしていたり。

キッチンとフロアの双方を繋いで繰り返されていた小爆発がもう我慢できないぃぃ!って大噴火、というかあーめん、になってしまうまで、カメラはずっと律儀にちょこまか追っかけているわけだが、おまえ見てばかりいないでなんとかしてやれよ、ってちょっと思った。当然カメラはずっと動いて揺れているので、酔いやすい人は注意かも。

あと、描きたいのはそこじゃない、のかもしれないけど、レストランを舞台にした作品でお料理がきちんと撮れていないのって、致命的にだめではないだろうか。

こういう、これから売り出そうとしているレストランも、既に名声が確立されているレストランも、その状態を維持しつつレベルを上げていく(ことを求められる)、その労力って本当に大変だしそこにかかるストレスも半端じゃないんだろうなー、っていうのがAnthony Bourdainの件とか、Gordon Ramsayの番組とか、Mario Bataliの件などを通して見えるようになったここ数年 - 7~8年くらい? きばって無理してそういうとこ行かなくてもいいや(Covidもあったし)、になってしまって随分たつ。そこに行かないと得られない一生に一度のなんか、があるのかも知れないし、あってもいいとは思うしそこを目指してがんばる人々がいるのもわかるけど、別にそうじゃない形でもおいしいもの、って追及できる – そっちの可能性の方に興味がある、というか。

あんま関係ないけど、BBC Oneで土曜日の午前にやっていた(現地ではまだやっている)"Saturday Kitchen"ていう番組があって、あれが本当に好きで、会いたくて恋しくて泣いている。

司会者(Matt Tebbutt、少し前はJames Martin)は料理もできる人で、ゲストがいて、割と有名なシェフ(Tom KerridgeとかYotam Ottolenghiとかいっぱい)も呼ばれていて、ゲストとトークをしながらテーマの食材とかゲストの思い出の料理についてのトークをしながらシェフたちと料理を作って(レシピはそんなに詳しく説明しない)、番組のソムリエがそこに会うワインとかリカーの紹介 - 近所のスーパーで買えるやつ – をして、みんなで一緒に食べたりするのと、料理の合間に別のところで撮ったりアーカイブだったりの、Nigel Slater(かっこいい)とか、Nigella Lawson(かっこいい)とか、Nadiya Hussain(すてきなママ)とか、Raymond Blanc(フレンチ!)とか、Mary Berry(おばあちゃん – 『ブリティッシュ・ベイクオフ』は彼女に会いたいから見る)とか、Rick Stein(旅がらす)とかの楽しい食材とか料理の映像が挟まって、この番組は自分のなかの英国~ヨーロッパに対する食や料理に対する見方・考え方を大きく変えてくれた気がする。
(まだ見ている途中だけど、HBO Maxの”Julia”ってこういう番組の先駆けだったのでは)

いまだに日本の「グルメ番組」って料理店の苦労話か大食い大会かタレントが「うまいー」って悶えるのばかりでなにがおもしろいのか、まず食=欲望で、食べることとか食文化に対する敬意がゼロでうんざりする。これらを見る限り、いまだに一部の駐在員が偉そうに信奉する日本食=世界一!なんて冗談としか思えないわ。

とにかく、この映画で描かれたようなきりきりしたレストランの運営のありようってドラマとしてわかんなくはないし、本当にこんなだったらがんばって、しかないのだが、別世界でいいや、ってなってしまう。そうなってもおかしくない作りかなあ、って。

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