6.06.2022

[film] Out of the Fog (1941)

6月1日の午後、Criterion ChannelのIda Lupino(役者)特集で見ました。

監督はAnatole Litvak。撮影はJames Wong Howe。原作はIrwin Shawの戯曲”Gentle People” (1939)で、お芝居はブロードウェイで結構当たったそう。脚色にはJerry WaldやRobert Rossenの名前がある。日本では公開されていない?

ブルックリンの波止場 - Sheepshead Bayの辺りだって - で、小舟に火を点けて燃やしたりしている見るからにやばそうなやくざ - Harold Goff (John Garfield)がいて、彼がそのままひとり波止場のバーに入っていって、ふんぞり返ってカモを探しはじめる。 そこからGoodwin (Thomas Mitchell)とOlaf (John Qualen)の地場の労働者ふたりがもっと年をとったら釣り舟でも買って毎日釣りをして楽しく暮らそうぜ、とか話しているとこにGoffが現れて、いまのボロ舟が火事にならないように見張ってやるから週に$5だせ – 出さないと知らんぞ火ぃつけるぞ - って脅してきて、気の弱いふたりは言われるままに払ってよくわからない紙にサインしてしまう(しちゃだめ)。

GoffはGoodwinの娘で電話交換手をしているStella (Ida Lupino)にも目をつけて、彼女にはまじめなよい彼のGeorge (Eddie Albert)がいるし、Goffがあまりに強引に迫ってくるので初めはなによあんた? なのだが、ふつうの暮らしとつまんない仕事にうんざりでこんな霧の町からとっとと出たくてたまんなくて、でも一緒にいられればそれで幸せそうな堅気のGeorgeに物足りなさを感じていた彼女はなめんなよの態度を崩さないまま絡みとられて近づいていくようになり、GoffがStellaに贈り物攻勢をするようになるとふたりで飲んでダンスして朝帰り、するようになっていく。

更にGoffは舟の件で勝手にローン組んでGoodwinたちに法外な金を要求するようになって、Stellaを人質のように使って脅したり、彼女をキューバに遊びに連れだそうとして更に金をせびったり、彼らへの暴力も酷くなってきたので警察を呼んで簡易裁判もしてもらうのだが、君たちこの書類にサインしちゃってるよね、であっさり負けてしまう。

ここまできたらもう我慢できないGoffを消すしかないな、ってGoodwinとOlafが計画をたててどっちがなにをどうする、をコイントスで決めて、おっかなびっくりなんとかGoffを舟に乗せて沖に漕ぎだして..
少しネタばれするとGoffを海に沈めることに成功するのだが、この後にまだひと悶着あってハラハラする。

めちゃくちゃ強気だし実際に強くて金のある奴が勝つのさ、のGoffにいいようにカモにされていくかわいそうなGoodwinとOlaf、Goffに迫られてあんたなんか冗談じゃないなめんな、って言いつつ別世界に惹かれていくStella、それぞれに暗くて明日のないかんじ - ドラマはほぼずっと夜の間に起こる - って、定番だと彼らを救ってくれるヒーローぽい人物が現れてもおかしくないのだが、そういう役柄のひとは最後まで現れない。暗い夜と霧の波止場で起こる生々しくてちょっとおかしくて、でも全体としてはノワールの湿気で覆われている。

時勢的にはGoffの挙動や考えは明らかにナチスのそれを想起させて、原作もその辺が強調されていたようだがHays Officeの検閲はその辺を許さなかったらしく、Goffは揉み合ったあとに偶然海に落ちて死んだ、ようになっている、って。確かに泳げないって言っていたけど、海に落ちたらそのままあっさり沈みすぎ。もしこれがヨーロッパで撮られたら、もっと救いようのないものになったのではないか。

あと、Goff役は最初Humphrey Bogartがキャスティングされていたけど、すでに”They Drive by Night” (1940)と”High Sierra” (1941)で共演していたIda Lupinoが彼とは嫌だってJohn Garfieldに変えちゃった、って。この頃はIda Lupinoの方が格上だったのね。 確かにぎんぎんのJohn Garfieldに嫌々絡みとられていくIda Lupinoの生々しい絵は怖くてすごいかも。

このIda Lupinoのシリーズ、見れるだけ見ていきたいのだが、どれ見てもすごいなー、しか出てこない。単純な悪い娘、傷を負った娘、なんてどこにも出てこない。いつもいろんな過去や背景や要素を背負ってぜんぶが入り混じって複雑で、だからあんなふうにもこんなふうにも動くし動けるし、最後まであがき続けて止まることがない。これが役を生きるということで、それってそのまま彼女が監督する映画の女性にも繋がるような。


梅雨が来てしまったので今年はもう終わりにして夏だけど冬眠したい。仕事いきたくない。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。