6.12.2022

[film] J'accuse (2019)

6月5日、日曜日の夕方、『リカルド・レイス…』の後にTOHOシネマズシャンテまで歩いていってみました。

原題はÉmile Zolaが新聞に事件を糾弾した際の大見出し「我告発す」なのだが邦題はなんであんなの? って思ったら、原作としたRobert Harrisの小説のタイトルが”An Officer and a Spy”なのだった。元は英語で英語圏の俳優で作ろうとしていたらしい。 同じくドレフェス事件をテーマにした英国映画 - ”I Accuse!” (1958)ていうのもあって、これはGore Vidalが脚本を書いたりしていて、ちょっと見たい。

Roman Polanskiの監督・共同脚本作(もうひとりは原作者のRobert Harris)なんてあんま見たくないのだが、『失われた時を求めて』の後半にも出てきたドレフュス事件がテーマだし、Louis Garrel とかJean Dujardin とかMathieu Amalric とかMelvil Poupaud とかVincent Perezとか、好きな俳優さんがいっぱい出ているので、やはりしょうがないか、って。

2019年のヴェネツィアで銀獅子・審査員大賞を受賞して、2020年のセザール賞ではなんと監督賞を獲ってしまったのでAdèle Haenelさんがふざけんな、って椅子を蹴って退場したのはまだ記憶に新しいところ。 音楽はAlexandre Desplat。

1894年、軍の機密をドイツ側に漏洩した大逆容疑でAlfred Dreyfus大尉(Louis Garrel)が軍法会議にかけられて有罪となって孤島 - いまのグアンタナモ湾収容キャンプと同じような地獄 - に流されて、その1年後、Dreyfusの上司でもあったGeorges Picquart大佐(Jean Dujardin)が軍の機密諜報部の部長となる。

彼はこの事件が軍内部や社会に蔓延する反ユダヤの傾向を巧みに使って乗っかったものであることに十分意識的で、彼自身にもその傾向があることを自覚しつつも、諜報部内部で現場を仕切るHenry (Grégory Gadebois)などから漂う腐った臭気を感じて - Picquartの前任部長は梅毒でやられてへろへろだった - Dreyfusの件や他の情報源についても別に人を雇って調べてみると証拠集めも証拠固めも極めて杜撰かつ恣意的で、Dreyfus有罪の決定的な証拠となった文書の筆跡を鑑定士Bertillon (Mathieu Amalric)に改めて見てもらうと別モノ - 怪しいって追っていた奴のにぴったりだったことがわかる。スパイは別にいたじゃん.. て。

こうして再審請求に向けてPicquartが動きだすと内部の腐敗を晒されたくない軍の上を含めてあらゆる方面から圧力だの嫌がらせだのが襲いかかって非国民扱いされて拘束までされて、最後の手段と国会議員にÉmile Zola (André Marcon)に弁護士のLeblois (Vincent Perez)、Labori (Melvil Poupaud)たちがメディアを使ってキャンペーンを張ると世論は二分されて大騒ぎになり、でも直後の裁判では負けて、PicquartとHenryの決闘を経ての二審では直前にLaboriが暗殺されたりどこまでも血生臭くて、このあとの結果はみんなご存じのとおり。

Picquartはパーフェクトな正義の味方というわけでもなくて人妻のPauline (Emmanuelle Seigner)と逢瀬を重ねていたりもして、それ故に痛い目にあったりもするのだが、告発された軍の将軍たち - Gonse (Hervé Pierre)とかBillot (Vincent Grass)の厚顔さ狡猾さのが断然やばそうで、なにかというと目配せして「じゃあ君はユダヤ人に..」ってなる。この辺、なにかというと共産党が.. っていううちの国の腐った政治家たちとほぼ同じ。百年遅れか。

日付の字幕とかほぼなしのまま過去と現在を行き来して繋いでぐいぐい見せていく語り口はすごいな、って思うもののどちらかというと俳優たちの力かも。Polanskiは裁判制度の「被害者」として個人的にドレフュス事件に興味を持っていたと語り、映画の中でもAlfred Dreyfusの弁護士役(..)として出たりもしているのだが、プロモーションの手前で過去の女性虐待を告発されたりしてしょうもない。こんな状態でセザール賞を受賞するもんだから椅子を蹴っ飛ばされるのも無理ない。映画祭関係者たちの感覚、だいじょうぶか? Dreyfusの頃みたいになっていないか?

うん、やっぱり俳優たちがすばらしくよくて、PicquartとHenryの決闘シーンの生々しさ(とても痛そう..)とか、軍の幹部たちのやーらしいかんじとか、無罪となって出てきたDreyfusとPicquartの対面シーンとか、見どころはこっちの方かも。

あとは改めて、国の傾向が司法も含めてああなっていっちゃうと絶望しかないよねえ、って。うちの国は既にじゅうぶん酷くなってて、メディアはそれに乗って偏った「まとめ」とか解説する機能しか果たしていない。だからÉmile Zolaのような知識人とか文化人は必要なんだよ。

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