6月9日、木曜日の午後、Criterion Channelの女優としてのIda Lupino特集で見ました。
タイトルだけだとB級アクションものみたい。 Criterion Channelでは6月からJudy Garland特集も始まってしまったのでいろいろやばい。梅雨だし洋画の新作もあんましないし、映画館に通うこともないのでは、とも思うのだが、思うのだが。
邦題は『虚栄の花』 - 『虚栄の市』だとサッカレー。 監督はVincent Sherman、撮影はJames Wong Howe。 原作はIrwin ShawがGinger Rogersと彼女の最初の夫(結婚した時彼女は17だった)と彼女の母のことを書いたお話をJerry Waldらが脚色したもの。ShawはHoward HawksかWilliam Wylerに監督してもらいたかったって(あー William Wylerが監督したらどんなだったろうー)。 歌って踊るシーンも結構あって、バックステージものとしておもしろいのだが、それだけじゃなくて。
冒頭、波止場で女性がふらふらと身投げして、病院に運ばれたHelen (Ida Lupino)がどこから来たんだ? と問われてうわ言のように”Green Hill”って呟くと、お話しは製鉄の町のGreen Hillに移っていく。これに続くこの町のいくつかの描写がどっしり見事で、ここは別のドキュメンタリーの映像を持ってきているらしい。
夫と妹のKatie (Joan Leslie)とぼろ屋に暮らすHelenはKatieに卒業式の$8のドレスも買ってあげることができない貧困生活と甲斐性なしのダメ夫にうんざりしていて、そんなある日、町にどさまわりでやってきたボードビル芸人のPaul (Dennis Morgan)とAlbert (Jack Carson)が食堂のフロアで楽しそうに歌って踊っていたKatieに目をとめて、それだけじゃなくAlbertは彼女に惚れてしまったようで、僕たちと一緒にツアーに出ないか、って誘ってきて、はじめのうちHelenは慎重に突っぱねていたのだが、Albertの熱意と愛に折れてふたりは結婚してコンビでステージに出るようになり、Helenはそれを袖で見守ってマネージャーもこなすステージ・シスターになる。
やがてHelenの営業とKatieの努力が功を奏してひとりでブロードウェイの舞台に立てるようになるのだが、その時にはAlbertは少し厄介者になっていて、KatieにもHelenにも取りあって貰えず、彼女のステージネームもいつの間にか結婚前の旧姓に戻っていたりするので落ち込んで滅入ったままAlbertは自殺してしまう..
そういうのがあっても順調にスターへの階段を昇っていくKatieだったが、やはりどこか寂しくて不安定で、そこに昔を知るPaulが現れてふたりは恋におちるのだが、HelenにはそれがPaulの企みのように見えておもしろくなくて間に割って入るようになる。ちょうど演劇の主演女優として舞台にたつ勝負どころだったのでKatieの不安も最高潮のとき、HelenがPaulに会うことを邪魔したってkatieが取り乱した結果、初日の舞台はがたがたになって…
すべてはKatieのため、だったし、それでふたりでやってきて上手くいって彼女はスターの座を掴んで成功したのだし、自分こそが彼女の最大の理解者で庇護者のはず、だから自分のジャッジに従って、というのがHelenの理屈で、でもある時点からのKatieはそうではなくなって、もう自分の力で舞台も恋も掴めるようになっているのだ、だから―、と浮かびあがってくる溝のありよう、これって親子にも姉妹にも割と普遍のドラマのような。
そして、ステージや演劇という装置が育んでしまう欲望がでっかく肥大していろんなものを食い荒らして、そもそもそこにあった関係や思いを壊したり空振りさせたり、そして最後には.. というのもものすごくよくわかる。 ありそうな話をモンスターの悪役になる手前ぎりぎりのところに立ち、それでも自分が育てた妹の傍にいようとする - 故郷を捨てて再婚もせずに妹のためだけに奮闘してきたかわいそうな姉 – をIda Lupinoはその怖さ弱さも含めてすべてをさらけ出すような演技をしている。ラストの彼女の透けるような表情の白さと脆さ、儚さときたら。
元々Helenの役はBette DavisとGinger Rogersにオファーがいったそうだが、Bette Davisだったらここまで行けたかどうか。もうちょっと毒が出てしまったのではないか、とか。 それにしても、これを演じた時ってIdaはまだ25歳くらいなんだよ、すごくない?
London、Grace JonesのMeltdown、楽しそうだなー。 こっちは腐れ落ちていくだけだわー
6.14.2022
[film] The Hard Way (1943)
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