6月12日、日曜日の夕方、BFI Playerで見ました。
原題はアイルランド語のアイルランド映画で、登場人物たちもほぼアイルランド語を喋って英語字幕、たまに英語で喋ったりするシーンもあるのだが、こちらも字幕がないときついかんじ。英語題は”The Quiet Girl” - アイルランドだしJohn Fordになんか関係あるのかと思ったけど、なかったみたい。
原作はClaire Keeganの短編“Foster” (2010) - 未読 - 脚色/監督はこれが初長編作となるColm Bairéad。
とてつもなく地味で静かな映画なのだが、アイルランド/UKではヒットしているらしい。すばらしい。映画もほんとによくてー。
80年代初のアイルランド - ウォーターフォードの農村に暮らす9歳のCáit (Catherine Clinch)が遠くにある家のなかから家族に呼ばれて、彼女は草叢に転がったままであまり動かない - 動きたくないらしいし、呼ばれていってもほとんど喋らない。 家には姉妹の子供たちも大勢いるのだが相手にされていないようで、絶えず子供の泣き声が聞こえてて張り詰めた緊張があって、Cáitは単に喋らないというより喋れなくなっている/喋らなくされてしまったのだな、というのを彼女の張りつめた(無)表情からうかがうことができる。
やがてお腹が大きくてしんどそうにしている彼女の母親(Kate Nic Chonaigh)から剥がして追い払うかのように半ば酔っ払っているかのような父親(Michael Patric)の車に乗せられて - この車中での父親の粗暴な態度と一方的なやりとりからCáitがこんなふうに固まってしまったのは多分に彼のせいなのだ、というのもわかってくる - どこかに連れていかれるようだが、彼女に選択の自由なんて勿論なく、表情は凍りついたまま。
彼が車で連れてきたのはCáitの母親のいとこのEibhlín (Carrie Crowley) とSeán (Andrew Bennett)の夫婦の家で、酪農をやっている農家で子供はいないらしい。緊張ともともとの無口からがちがちに喋れなくなっているCáitをEibhlínはやさしく気遣ってくれて、緊張と混乱でおねしょをしてしまっても怒らずに服を買いにいってくれたり、寡黙なSeánも最初は怖そうなのだが黙っていろんなところに連れていってくれたりあれこれ見せてくれたりそっとお菓子を置いてくれたり、互いにゆっくり寄っていって気がつけば一緒に農作業をやるまでになっていたりする。
最初は見ているこちらもCáitと同じように恐々どきどきで、ここが元の家と同じように虐待と緊張を強いる家 → ホラーだったらどうしよう.. なのだがだんだんそうではなさそうなよい人たちっぽい、というのがわかってゆっくり解れていく過程がとてもよいのと、だからといっていきなり緩んで弾ける方にはいかないCáitの落ち着きと距離のとりかた - そこからうかがえる傷の深さにしんみりする。 そして夫妻にもかつては男の子がいたことがわかるとああそれで.. といろいろ見えるものがあったり。
日々のいろんなこと - 人工貯水池に水を汲みにいったり、一緒に牛舎を掃除したり、郵便箱に走って手紙を取りに行ったり(Seánがそのタイムを計測する) - すべてがだんだんに楽しく馴染んできた夏が終わると、母親の出産も終わったからと家に戻るときがやってきたらしく、嫌な父親が車でやってきて新しい服とか少し増えた荷物をつめてお別れをする時がきて、夫妻はCáitの家までついてきてくれて..
ここから先は書きませんけど、ラストはぼろぼろに泣いてしまった。 Cáitは最後の最後までQuiet Girlなんだけど、でも最後に.. 神さまお願い、って思いっきりー。 子供時代の終わり、楽しかった夏の終わり、それらとどこまでも輝いて見えたあの家の佇まい、暖かく迎えいれてくれた夫妻と。
最後までほとんど喋らずに凍りついて張りつめた目の動きと表情だけで訴えてくるCáit役のCatherine Clinchの驚異と彼女を取り囲んで束縛から解放に向けてゆっくりと色を変えていく(ように見える)夏の光、家屋に射しこむ光、いろんな緑の輝きをとらえていくカメラがすばらしいの。
ここ数日間のいろんな裁判の判決を見て、裁判所がああいう判断をする国にいる/いなければならないのって、あまりに酷いし耐えられないし、どれだけ不平等な、人を虐待してぜんぜん平気で澄ました顔の野蛮な国にいるのか、って唖然としている。選挙に行くしかないってみんな言うし、そうなのだろうけど、それにしたって最低すぎる。恥を知ろう。
6.20.2022
[film] An Cailín Ciúin (2022)
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