11.10.2018

[film] They Shall Not Grow Old (2018)

10月27日の土曜日の晩、Imperial War Museum (IWM)で見ました。

第一次大戦の際に残された大量のアーカイブ映像をPeter Jacksonが復元して纏めたもの。第一次大戦終結から100年の今年、英国ではいろんな追悼イベントが行われていて、その中のひとつとしてこれがLFFでプレミア上映された際にはウィリアム王子も列席して、そこでの上映は売り切れでぜんぜん見れなかったのだが、LFFの後にイギリスやロンドンの外れの方でぽつぽつ(一日一回くらい)上映していて、IWMではこの週末の2~3日、17時からと19時からの2回だけFreeで上映すると。入場は先着順だから早目に来てね、というので1時間くらい前から並んだ。

IWMていうのは戦争関係の資料とかいろんな実物とかを収集保存展示している国の機関で、戦争はきらいなので行ったことはないのだが、反戦のポスター展とかもやっていたりするのでやっぱ一度は行ったほうがいいよね、くらいは思っていた。でもここの終了時間間際に並んだので他の展示などは見れないまま。

映画を上映した場所は映画以外にレクチャーとかもできそうな隙間風が来るだだっ広いホールで、でも画面も音も申し分なかった。LFFのときは3D上映されたようだが、ここのは2Dで、一番最初にPeter JacksonがIWMに見に来てくれた皆さんありがとう、見てね、って画面の向こうから挨拶する。

最初は開戦が宣言された時の晩から、これはこの前に見たサイレント”Blighty” (1927)にもあったように静かであっけなくて、こないだまでドイツの連中とはラグビーの試合してたのになー、くらいのトーンで起こって、みんな1ヶ月くらいでとっとと終わるよね、くらいの楽観的なかんじで、そのかんじのままの勢いで軍に志願してくる若者はいっぱいいて、年齢を偽ってでも入隊したい、と言ってきた連中のいろんな手口まで紹介される。

音声はおそらく当時の記録として文書とかに残されていたものを起こして複数の声優がフィルムに被せていく、後の方の戦場での声は、フィルムに映しだされた口の動きを読唇の専門家がお喋りとして復元して、声優がそこにあわせていく。後者のリアルさときたらすごい。デジタルすごい。

軍に入った若者たちは服とか靴とか銃とか日用品一式を支給されて、6週間だかの訓練を経た後、川辺から船に乗せられてフランスに渡って… という具合に、市民が戦争に参加するまでの過程が極めて具体的に描かれて、ふつうのひとが戦争に行くっていうのはこういうことなんだ、ということがわかる。 

で、フランス国内を隊列組んで平坦な陸地を移動していくところから画面がするする大きくなって、色がついて、背景音、喋っている声も含めて音声がいきなりリアルな臨場感をもって、戦場のなかに入っていく感覚がやってくる。(ここはちょっとびっくり)

それと共に兵隊たちの顔から笑顔が消えて何が起こってもおかしくない緊張感のなかに放りこまれていることがわかる。そこから先の前線の塹壕の描写は泥まみれのぐじゃぐじゃ、ひどい衛生状態のなか死体がそこらじゅうに転がっていて、蠅がたかっているその羽音まで聞こえて、ネズミもうようよ、炎症を起こした足先が腐っていくようなところもぜんぶ映されている。人だけじゃなくて馬もそこらじゅうで重なって死んでいて、走っている馬車ごと爆弾で飛ばされるようなシーンまである。大砲をぶっぱなすと衝撃で周囲の民家の瓦がぼろぼろ落ちたり、大砲の後は戦車がめりめり進んで行って、最後に歩兵部隊の突撃、となるのだが、指令が出るときに向けて彼らが銃の先に剣を据えるとこなんて胸が張り裂けそうになる。向こう側には機関銃の掃射があるかもなのに(実際にあったことを我々は知っている)、どんな気持ちだったのだろう。そしてその先には死体の山があって、その血は泥と一緒くたになってどす黒いだけ。

映画みたいに見えるところもあるけど、これらはぜんぶリアルの、本当に撮られたもので、こんなふうにしてイギリスでは少なくとも100万人が戦死した。

そういうの以外には休憩時とかみんなで酒飲んで歌うところか、ドイツの捕虜とのやりとりとかもあって少しだけ笑顔も見えたりするのだが、ここでの笑顔はもうやけくそのそれにしか見えなくてとっても痛ましいし虚しいし。

映像は彼らが故郷に戻っていくところで再び縮んで最初とおなじサイズのモノクロに戻るのだが、見るだけでもぐったりしすぎて安堵どころじゃない。あんなところにずっといたら後遺症にもなるよね。

“As You’ve Never Seen It Before”というコピーがあって、確かにそれは映像の異様な生々しさも含めてそうなのだが、なんでこれまで見ることができなかったのか、ていうのと、こういうのがありながらも次の大戦は起こったし、未だに世界中で戦争は起こり続けているし、なんなのかしら、っていうのはふつうに思う。

同様の戦場での記録は二次大戦でもベトナム戦争でもあるのだろうが、近代になればなるほど、兵器の破壊力殺傷力は増して、ここまでスローな(という形容は嫌だけど)、見た目にはっきりとわかる地獄はなくなっているのではないか(地獄はどっちみち地獄、であるにせよ)。

タイトルはLaurence Binyonの詩"For the Fallen"から取られていて、映画は従軍したPeter Jacksonの祖父に捧げられている。

こないだの”The Great Victorian Moving Picture Show”といいこれといい、英国の古い映像の復元や保存にかける情熱ってすごいな。
古いものを大事にっていうのは英国人のベースにあるんだろうけど、それにしてもえらい。

映像どころか日報ですら平気で隠蔽しようとするきれいごとだいすきの国にっぽんでも見られるべきよね。

*英国のひと、11日日曜日の21:30からBBC Twoでまるごと放映するみたいよ。

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