11.14.2018

[film] Wildlife (2018)

11日の日曜日の午後、CurzonのBloomsburyで見ました。上映後にCarey MulliganさんとのQ&Aつき。

原作はRichard Fordの同名小説(1990)- 未読。これをPaul DanoとZoe Kazanが一緒に脚本にしてPaul Danoが監督したもの。映画製作は初めてとなる文芸オタクの二人が膝付きあわせて、どんな議論を重ねて練りあげていったのか目に浮かぶようだが、出来あがったものは微笑ましい、なんてところをはるかに越えたすばらしいものだった。

60年代、モンタナの一軒家にJeanette (Carey Mulligan)、Jerry (Jake Gyllenhaal)、彼らの息子で16歳になるJoe (Ed Oxenbould)が仲良く暮らしていたのだが、ある日突然Jerryが勤務先のカントリークラブをクビになって、後日それは勤務先の方のミスだったと言ってくるのだがプライドを傷つけられたJerryに戻るつもりはなく、失業状態となった彼は家や車のなかでぼーっとしていることが多くなる。 Jeanetteとの関係も危ういかんじになってきたところで、Jerryは頻発している山火事の消防隊の支援に手を挙げて、ひとり山奥の方に消えてしまう。

Jeanetteはパニックを起こしつつも仕事を探さなきゃと、どうにか地元のスイミングスクールのトレイナーの職を得て、親子の生活を立て直していくのだが、スイミングスクールに来た生徒として知り合った年寄りでそこそこ金もあるWarren Miller (Bill Camp) に吸い寄せられるように近づいて親しくなっていく。

というような、ついこの間までみんな幸せだったのに突然なんで? と目の前に迫ってくる山火事を見ているかのような光景(実際に彼が間近にそれを見るシーンがある)が多感なJoeの目を直撃し、ママのところにやってくるやらしそうなMillerやMillarとの密会に向かうママ、彼女の外観や挙動が荒んでいくのを信じられない思いで見つめ、彼は学校よりも町の写真館でのバイトに精を出すようになったころに、Jerryが山から戻ってくる。

少しやつれたJerryの目、突然消えた夫に対するJeanetteの憎悪の目、元に戻すことができない山火事になることは目に見えているのに、Joeの目はふたりをはらはら見つめるしかなくて、でもここから先の展開とラストの切り取りかたがとてもよいの。 あのラストはねえ、思いだしただけで身もだえするくらい素敵で、ここだけのために何回でも見たい。

激しいシーンはあまりなくて静かでスローで、モンタナの山を眺めつつ遠くに汽笛が聞こえたりバス停に散りはじめる雪の見事なこと、色彩や構図はEdward Hopperの絵画で、アメリカの60年代の田舎だからこそ描けたような情景、あるいは“Little Miss Sunshine” (2006)で言葉を失ってしまった男の子を演じたPaul Danoだからこそ描けた家族のドラマ、この映画については繊細すぎるくらい繊細に考え抜かれたディテールがすばらしく、だから全体を通して一回だけ口にされる”Wildlife”という言葉も活きてくるのだと思った。

ぜんぜん関係ないけど、山火事が出てくるせいか成瀬の『山の音』を思いだしたりした。成瀬のメロドラマにある、こまこまどこかしら狂っていて戻ってこれなくなる怖さと切なさ、あるかも。

上映後のCarey MulliganさんとのQ&Aは、ひとりの女優としてJeanetteのような女性をどう演じ、彼女の挙動についてどう思ったか、というところに集中して、それに対する彼女の答えもとても納得いくものだった。突然愛する夫が失業して家を出て行ってしまったとき、混沌と共にショック状態がくるのは当然で、そこでまずしなきゃいけないのは子供を守ってその食い扶持を確保することなので、彼女が取った行動に特別おかしなところはなくて(実際に母親になって – もうじき次のも、って - わかったところもある)、少なくともそういう状態をもたらした男の側がそっちの論理であれこれ判定したりするのはおかしいと思う、というようなことを実際にはこれよりずっと長く喋っていて、彼女も相当考えながら役作りをしていったことは明らかで、そういえば彼女のこれまでの作品も理知的な眼差しと獰猛な眼差し、その隙間に現れる羞恥の間を微細に揺れ動いていくスリルに満ちた、そういうものだったねえ、と思った。

Paul Danoはこのまま映画監督になっちゃうのかしら?  俳優としての彼が演じてきた変てこなキャラが好きだったので、そっちも続けてほしいのだけど。

邦題、こんどふざけたらただじゃ..

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