10月6日から始まっていた(12日で終ってしまった)ブラジル映画祭、どうしても見ねばならぬものがふたつあったので、11日の木曜日、会社終って速攻で駆けこんで続けてみた。
最初に見たのがこれ。
O Homem que Engarrafava Nuvens (2008)
『バイアォンに愛を込めて』 "The Man Who Bottles Clouds"
ブラジル北東部、ノルデスチの音楽様式であるバイアォン(baião)、それを40年代からブラジル全土に広めていった歌手Luiz Gonzaga(ルイス・ゴンザーガ)と作詞家Humberto Teixeira(ウンベルト・テイシェイラ)、①その評伝をTeixeiraのひとり娘が綴る、②なぜバイアォンはこの時代、ブラジルのこころの歌として広がっていったのかを検証する、③バイアォンの魅力と輝きをMPBの大御所たちが語り、そして歌う、の3つの軸からなるドキュメタリーでした。
ドキュメンタリー映画としては、なにもかもぶち込み過ぎであっぷあっぷでしたが、お勉強にはなった。 あとは音楽ゲストがすごいので、とりあえずぜんぜん飽きずにわーわーしているうちに終っちゃう。
Gilberto Gil大臣によると今のブラジル音楽の原要素はバイアォンとサンバのふたつに大別できてしまうのだと。確かに、間口がでっかくてどんなアレンジでも、道端の歌と手拍子だけ、歌とギターだけのものから大編成だろうがごりごりファンクだろうが、なんでも吸収してなんにでも応用できてしまう。 こころの歌なんだからそりゃ文句ねえだろ、と。
こうして、バイアォンはボサノバ以降のトロピカリズモ(民族復興運動)の担い手達にも大きな影響を与えていったのだと。なるほどー。
でもさー、こういう地音楽の伝承についてちゃんと検証するんだったらポル語の音韻とか民族音楽誌まできちんと踏まえていかないと難しいよね。大衆音楽だから、って言っちゃうとそれこそ、レゲエのルーツはバイアォン(ていう証言も出てくるの)、みたいななんでもありの説まで出てきちゃうし。
ともかく、というわけで、スタジオで歌ったりライブ会場で歌ったりしてくれるゲストは以下のような。
Gilberto Gil, Caetano Veloso, Maria Bethânia, Chico Buarque, Gal Costa, Os Mutantes などなどなど。みんなHumberto Teixeiraの曲をカバーするだけなのだが、どれもがとんでもなく素敵。
Sivucaがものすごく滑らかに艶やかに弾きだしたアコーディオンの横からGal Costaの声が被ってくるとことか、いつものCaetanoとか(彼が"アイ~アイ~アイ~"とかやっているだけでじーんとくるのはなんで)。 あと、彼が"Terra"を歌って、ここだけ自分の歌を歌うの? と思ったらこの歌はHumberto Teixeiraのことを歌ったのだと。
そしてブラジル圏外から唯一、New Yorkの生き証人としてあれこれコメントしてくれるDavid Byrne先生も、2006年のJoe's PubのForró in the Darkのライブゲストとして演奏してくれるの。
彼がさっそうと自転車でBrooklyn Bridgeを、Down townを走っていく姿も映っている。
なんでわざわざ自転車姿なのかよくわかんないけど。(本の宣伝?)
Elis Regina: MPB Especial (1973)
『エリス・レジーナ ~ブラジル史上最高の歌手~』
2本目のやつ。
Elis Reginaが73年、TV番組でやったスタジオライブ、2回に渡って放映された内容をひとつに束ねたもの。 DVDは彼女の息子、Joao Marcello Boscoliのレーベルからリリースされている。 ほしい。
わたしが彼女のCDを貪るように聴いていたのは90年代末頃だったのでほんとに久々に聴いて、やはりぶちのめされる。
画面はモノクロ、カメラは固定の2~3台のみ。
バックはベースがLuisão、ドラムスがPaulinho、ピアノがCésar Camargo Marianoというすばらしいトリオ。
このそっけないくらいシンプルな画面仕様が、彼女の声の肌理とみごとに調和している。
Elisは、煙草をひっきりなしに吸い、ネックレスを落ち着きなくいじり、しかしカメラをしっかり見てこれから歌う曲、曲を作ってくれたコンポーザー(自作の曲はない)のことをとりとめもなく語って、そのまますっと曲に入っていく。 Elisが歌う。 Elisが笑う。
歌うのはGilbert GilからMilton NascimentoからTom Jobimまで、いろんな人たちによるいろんな歌。 全17曲。
例えば声の艶とか大きさだったらGal Costaのがすごいだろうし、個性的な歌唱、だったらMaria Bethâniaのが上だと思う。 でも、それでもなんでElis Reginaの歌がすばらしいのか、ひとを虜にしてしまうのか、その不思議がぜんぶ詰まっている。
声の気持ちよい冷たさ、悲しさ、寂しさ、他方でひとの作った歌を完全に自分のものにしてしまう強さ(自分は母親に似ている、ではなく、母親は自分に似ている、という言い方を彼女はした)、情熱的で圧倒的な歌声で聴き手を吹き飛ばすのではなく、曲と人を手元に手繰り寄せる魔法。
ショートカットの少年の刺すような眼差しと猫のようにまんなかに集まる笑顔と。
これを見たら誰だって彼女に曲を作ってあげたくなるにちがいないの。
Jobimの「三月の雨」は彼女ひとりで歌うのだが、ひとりでもぜんぜんすごい。
この曲もまた、なんてすばらしいのかしら、といつも思う。
10.15.2012
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