10.29.2012

[film] Bella Addormentata (2012)

土曜日の昼、TIFFの2本目。
『眠れる美女』。英語題は、"Dormant Beauty"。

2009年、イタリアで実際にあった17年間植物状態にあった女性の安楽死と延命措置を巡って巻きおこったあれこれと、その周辺の4つの家族(ひとつは家族ではないが)による3つのエピソードを追う。

映画はありがちな安楽死/延命の是非を問うものでも、その中心にあった何も語らない女性とその家族の葛藤を描いたものでもない。
イタリア近代/近年の史実をベースとしながらもその中心から少し離れたところで懸命になにか鍵爪を引っかけようとした - それはあなたとか自分とかだったかもしれない人たちのお話し。

一組は延命措置法案を緊急で提出しようとしている政党の国会議員とその娘Maria(Alba Rohrwacher)で、父親はかつて自身の寝たきりの妻との間で同様の問題に直面し、そのことで娘と疎遠になっている。娘は延命派の集会に出るため患者が搬送された地に向かい、そこで同様に延命反対のデモに来た兄弟と出会う。

娘は兄のロベルトと仲良くなるが、すぐに癇癪を起す弟がいて警察沙汰になったりしてうまくいかない。結局兄弟の母親が弟を連れにきて、彼と彼女は離れ離れになってしまう。 これが二組目。

三組目は高名な女優(Isabelle Huppert)で、植物状態にある娘の看病のために女優業を止め、そこに全てを捧げていて、聖女になりたいとまで言う。 彼女にとって今回の安楽死許可は断固容認できるものではない。 他方で俳優である夫も、俳優を志す息子 - 患者の兄も、今の状態が彼女にとってよくないことだと思っている。

四組目は病院に運びこまれたヤク中、自傷癖のある女性(『夜よ、こんにちは』のMaya Sansa)で、なかなか意識が戻らない彼女をある医師がじっと見つめている。

生と死の境目があり、カトリック - 反カトリック等それぞれの思想的な立場があり、実際に彼らの置かれている現実があり、彼らがなんとかしたいとあがく方角があり、それはその周囲の人々も巻きこむ複数の愛に貫かれていて、それ故にうまくいかない。 こうして折り重なるギャップを前に、更にその奥にある死という未知の、しかし絶対に逃れられない事象を前に、死を決定的な暗黒の深淵として、万能の解消薬として彼岸に置いてその流れに身を置こうとするのではなく、あくまで生の側に留まって苦しみ、戦う人々の姿を描く。

それは、それぞれの叫びを白日の下に曝す、個々の振るまいを極端に際立たせるようなアプローチを取るのではなく、どちらかというと暗い光の元、至近距離の静かな取っ組みあいとして示され、明確に鋭い叫び声をあげるのはIsabelle Huppertくらい、その強さは声というよりナイフのように瞬く。 その静けさは『眠れる美女』の目を覚まさないように、というより眠れる美女の尊厳と同等のなにかであるかのように。

『愛の勝利を』でも事件の周辺でわーわー言うだけのメディアが滑稽に描かれていたが、今回のそれは政界で、カバみたいに(カバの映像あり)お風呂に浸かってぬくぬくしているだけの無能野郎共でしかない、とそこにベルルスコーニ前首相の逮捕の報が入ってきたりする。

最後まで交錯することはない3名の女性の力強さとすばらしさ、そしてあのラスト。
窓を開け放つこと、靴を脱がせること、そして眼差し。 信じられないくらいすごいの。

見終わってからわんわんの悪寒に襲われ、咳が止まらなくなったので、当日券で入ろうと思っていたレイモン・ドゥパルドンのは諦めて帰りました。 ちぇ。

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