2.14.2018

[film] The Post (2017)

8日、木曜日の晩、West Endのシネコンで見ました。もう終わってしまいそうだったので慌てて。

これを見るのはとても気が重くて乗らなくて、なぜって、この60年代後半のジャーナリズムが成し遂げた(言葉が適切かどうかはわからないけど)ブレークスルーを題材にしたこの映画は「フェイク」だなんだでわーわー騒いでばかりの今のジャーナリズムのありように対してなにかを突きつけようとしている(受け取る側はふつうにそう取るよね)ことは明らかで、つまり今の茶番も含めた気色悪い政治とメディアを巡るランドスケープについて改めて振り返らないわけにはいかない。で、アメリカはまだいいよね、かもしれないけど、ひるがえって日本はというと、今のマスメディアもジャーナリズムも団子になった糞玉としか言いようがないので、あーあ、にしかならないの。

この映画、日本のマスメディアはどう評価するのかしら。主人公達がやったことをジャーナリズムの鑑とかって讃えたりするのかしら? どんな顔してそれを言うのかしら? 政権の意を汲んだり提灯掲げたりするのに嬉々汲々としている連中にそんなこと言う資格ないよね?  でもカエルの面でしゃあしゃあと褒めたりするんだろうな、そういう恥の感覚とか倫理観とか一切持たない厚顔連中 - 文字通り恥知らず - のようだから。

邦題は『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』ていうらしいのだが(もうさー、この名づけからして威圧的で勘弁よね。そういうのを平気で削除する国のくせに)、映画のなかを行ったり来たりする文書の束が「最高機密」であることが問われているか、というとそうではなくて、それが機密かどうかは知らんがなんかどう見ても怪しくキナ臭く匂ってくる紙の束があって、それを隠そう消去しようとして動いていく闇の力が見えるので、それをなんとか追って表に引っ張りだそうとする、その苦闘と奮闘を描いているの。 記者たちはそれが最高機密だから追っかけて暴こうとしたのではなくて、そこになんかいる/あるようだから、ということで動く。”The Post”は舞台となった会社 - Washington Postのことでもあるが郵便物のことでもあるしそれぞれの立場、役職のことでもあるし、時代や国や会社を跨って長いこと行き来したり隠されたり置かれたりしてきた幽霊のような情報の束がどこかのポストに投函されて明るみに出るまでを追う。

夫の死後にWashinton Postを継いだ – どちらかというとしぶしぶ継いだKatharine Graham (Meryl Streep)がいて、編集主幹のBen Bradlee (Tom Hanks)がいて、始めにNY Timesがスクープしたこの情報の在り処を巡って二人は動くのだが、Katharineは社の今後がどうなっちゃうのかとか、そんなの発表しちゃってよいのか、が気になっていて、二人が同じ方を向いて力を合わせてがんばる、というかんじではないの。ふたりはそれぞれに背後霊を抱えていて、文書そのものにもベトナムの怨念が籠っているようで、政権中枢もデモをしている市民もそれぞれにいいかげんにしろ、って怒っている。ポジティブな要素がなにひとつない幽霊みたいなものを移送して、タイプ連打の読経で呼び醒まそうとするサスペンス・スリラーで、中心のふたり以上に得体の知れない印象的な顔がリレーしていく群衆劇でもある。

これ、やりとりの全てが電子ベースで、会社の入退館も含めてぜんぶデジタルになってしまった今の時代には成立しないドラマで、幽霊っていうのはアナログなものなのね、とか。(デジタルの幽霊もいるのだろうけど、そいつらはケーブル伝って脳の内側から入ってきてダメージ与えて消える、みたいなかんじ)

傷つき戸惑いながらも最後には腹を括って正面を向くMeryl Streepが(いつものことながら)すばらしくて、Tom Hanksは.. なんか被り物を被っているみたいで、それはそれでおもしろいし、そういうキャラクターなのかもしれないけど、なんか。

これの対で、”The Times”ていう同じ件をNY Timesの側から追ったドラマが作られてよいと思うし、作られるのであれば、それはぜったい見たいわ(ただのNY贔屓)。

日本で同じようなドラマを作ろうとしても、内閣と司法と政党と警察と宗教団体とメディアががっちり繋がって固まったひとつのでっかいカルト集団の内幕(とそれが国の中枢にいること)を暴くだけになるので、気持ち悪くて誰も見たくないよね。 そんなのみんなもう知ってるし。

John Williamsの音楽、久々に当たった気がして、とってもよかった。

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