8月28日、日曜日の昼、Picturehouse Centralで見ました。
歿後50年のAlberto Giacometti展を日本でもTateでもやっているし、丁度よいかんじ。原作はみすず書房から出ている(今は品切れ?)『ジャコメッティの肖像』。著者のアメリカ人ライターJames Lord (Armie Hammer)が肖像画のモデルとしてGiacometti (Geoffrey Rush)のアトリエに通った18日間を時系列で綴ったもの。 監督は俳優のStanley Tucciさん。
64年、Giacometti は亡くなる2年前、60をとうに過ぎて当時の美術界ではぶっちぎり、文句なしの大スター、大御所なので少しは枯れた、マスターぽいナリや振舞いを見せるかと思いきや、底抜けどうしようもない我儘したい放題の風狂老人と、アメリカに帰国しなきゃいけないのに老人に好き放題に振り回されて滞在延期を繰り返してばかりの真面目なアメリカ人のまったくもう(溜息)なドラマに仕上がっている。
アトリエに入ると動物園の熊のようにうろうろ動き回り、イーゼルの前に座れば頭をかきむしって4文字言葉をまき散らし、ようやくできあがってきたと思ったら塗りつぶしてちゃらにして、愛人のCaroline (Clémence Poésy)がしょっちゅう遊びにくるので中断され、そのたびに妻のAnnette (Sylvie Testud)の機嫌が悪くなり、おまえら結局は金かよおら、みたいに開き直って札束をまき散らす、そういうのが通うたびごとにぐるぐる回って繰り返されるので、捗らないったらない。
それらを通してGiacomettiの絵画や美に関する思想や思いが搾り出されてくるのであれば我慢もできようが、そういうのはぜんぜんなくて、彼がブチ切れる前にこっちがブチ切れてモデルなんかもうやらん! て言ってもよいのにJamesは自分で滞在の延長をしているのだからご愁傷様としか言いようがなくて、でも最後のほうでは友情みたいなものも感じられる気がしたのでよかった、ということにしようか、と。
でもやはり一番の見どころはふたりの友情物語、なんかではなくてGiacometti自身のめちゃくちゃぶりに狂った老人ぶりで、それらの挙動が何かを生み出しているとはとても思えないのだが、展覧会の充実ぶりときたら問答無用にすごいので、この落差はなんなのか、と。 彼が常にアトリエに籠りきり、人間嫌いの孤独な老人だったのならわからなくもないのだが、あの狂騒が常態なのだとしたら、なんか痛快なじじい、としか言いようがない。 あの極限までそぎ落とされたひょろひょろの直立像が勝手に動き出す - とまでは言わない。 あくまでもJames Lordの目が捕えた晩年の彼、の姿、くらいに見ておく、でよいのではないか。
James Lord、演じるのはArmie Hammerで美化しすぎじゃないか、と思ったのだが、本人もぜんぜん堂々とした美形さんだったのね。
で、Geoffrey Rushって、こんなふうに変に凝り固まった(ちょっと怖い)老人を演じるのがうまいなあ、って。 前にそう思ったのは"The King's Speech" (2010)の先生の役だったけど。
矢内原伊作も少しだけ出てくるのだが、あれじゃただの怪しい東洋人でしかなくて、そこはちょっと残念だったかも。
音楽はEvan Lurieさんで、なかなかよかった。
TateのGiacometti展、終わる前にもう一度行かねば。
9.04.2017
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