1.18.2017

[film] La Academia de las Musas (2015)

8日の日曜日の午後、恵比寿のホセ・ルイス・ゲリン監督特集上映『ミューズとゲリン』でみました。
あーあ、『イニスフリー』、今回は見たかったのになあ…

「ミューズ・アカデミー」。 英語題は“The Academy of Muses”

バルセロナの大学の講堂でイタリア人のピント教授がイタリア語とかスペイン語とかを使って詩や古典の講義をしている。
カメラは講義をする教授とそれを聴く生徒たちを交互に捉えて、教授ははげででぶでDanny DeVitoみたいであまりぱっとしてなくて、俳優のオーラみたいのはゼロなので素人かと思ったら、どうもほんものの教授らしいのだった。 生徒のほうも同じでプロの俳優さんではないようで、教授との質疑もとってもほんとうぽくて、学園モノとしてのリアリティ、据わり具合はなかなかのもの。

で、ピント教授は神曲のダンテとヴェアトリーチェとかアラベールとエロイーズとか円卓の騎士ランスロットとアーサー王の王妃グィネヴィアの恋とかアポロンとダフネとか、いろんな古典や詩歌に描かれたり詠われたりしたミューズ(女神)のこと、ミューズを巡る修羅場だの悲劇だのどんづまりだのを自分が見てきたかのように知り尽くしているかのように語って、それはそのまま恋を夢見たり女神たらんとするアグレシッブな生徒たちにいろんな火をつけて、つまり教授は確信をもって生徒を恋愛の業火の方に扇動していて、実際に教室を離れて生徒Aと一緒にサルデーニャ島に旅したり生徒Bとはナポリに旅したり、楽しそうに女神教育をしているのだが、家庭では鬼のように冷たい妻にアカデミックでばっさりぐさぐさ刃物のような嫌味を言われ続けていて散々で大変で、でもぜんぜんかわいそうじゃなくて、他方で女性はみんなそれぞれの恋に悩み苦しみながらも美しく輝いていて。

教室内の一対多の光景とガラス越しの車内のふたりと自宅ないで互いにそっぽを向いたふたりが順番に映しだされて、その合間に開放的な旅先の景色が風穴を開けてくれる。 そしてラストには女神たちの笑顔が降りそそぐ。

ゲリンてほんとに女たらし、ていうか女性の美しさにやられておろおろしながらも手紙を書くようにカメラを回すしかなくなっちゃったひとなんだなあ、て改めておもった(褒めている)。 もう女性ときたらぜんぶ女神で、アカデミーになんか通わなくたって女神になるべくできあがっていて、女神は神だから問答無用で残酷で最強で男はその前で身を滅ぼしたり焼かれたり破滅したりするしかなくて、もういいんださあ殺せとっとと殺せ、て畳に転がってずーっと言ってる。 そして、実際に彼の映画に現れる女性はどれもほんとうに美しいミューズ連合なのでなにも言うことはないの。
つまり教授のアカデミーはミューズの製造に成功したということなのか? については、ううむ …   そういうことじゃないかも。


これの後で、「アナへの2通の手紙」(2010)、「サン゠ルイ大聖堂の奴隷船サフィール号」(2015)の中編2本もみました。
「アナ..」は二回目、かしら。
どちらも題材やテーマの取りあげ方は違うものの、美術の世界への扉を開いて、その中に入りこんで、その不思議や驚きについて語りかける形式で語っていて、本人は嫌がるかもしれないがゲリンて教育者としてとっても優れているよねえ - ピント教授にはなれないかもだけど - とか思った。

彼に吉田喜重の『美の美』みたいなシリーズをやってもらいたいなー。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。