10月28日、水曜日の晩、シネマヴェーラで『わが恋の旅路』 (1961)を見た後、ユーロスペースに下りて見ました。
オリジナルタイトルは『가능한 사랑』、邦題は『もしもの愛』。 Netflixなので配信ならふつうに見れるのかも知れないが、配信関係はぜーんぶ止めてしまったので、こういう機会でもないと見れない。
監督はLee Chang-dong、原作・脚本もOh Jung-miとの共同。8年ぶりの長編だそう。164分。
こないだのヴェネツィアでGrand Jury PrizeとFIPRESCI Prizeを受賞している。
二組の夫婦/家族が登場する。ひとつはホソク(Sul Kyung-gu)とミオク(Jeon Do-yeon)と10歳になる息子のチョルで、ホソクは大手自動車メーカーのリストラとそれに伴う労働争議に敗れるかたちで失業して、それに伴う心身の痛手から立ち直ろうとして苦しんでいる - そんな彼の苦しみをどうにかしなければ、とひとつになっている家族、もう一組は自殺した元同僚の葬儀にやってきたホソクとミオクを見て撮影させてほしいと申し出るドキュメンタリー映画作家のイェジ(Cho Yeo-jeong)と、その夫でヘッジファンドに働く裕福なサンウ(Zo In-sung)の夫婦(と犬)。カメラを手にしていないイェジは洗練されたファッションを装って頭もよさそうで、出自も境遇もまったく異なるものの、労働をテーマに撮り続けてきたイェジは、争議での機動隊の暴力と仲間に見捨てられたトラウマに苦しむホソクと、彼に前を向いてもらおうと懸命にケアするミオクの姿に打たれて、ホソクに煙たがられつつもなにか喋りだす度にカメラを回してくる。そして実際、ミオクが語るホソクの現在や彼と出会った頃の思い出話はなんかよいの。
当初の撮る側と撮られる側の関係と役割は緊張感たっぷりだったり痛々しかったりのミオクの語りが、語れば語るほどイェジたちを虜にしていって、彼らはそこまで語ってくれたお礼に&もっと仲良くなりたいから、とサンウの家が代々持っているプライベートビーチ付きの別荘にミオクたちを招いてひと夏を楽しく一緒に過ごしましょう、ということになる。
ふつうに撮られる側のミオクたちには喋りたくないこと、明かされたくないことがあったかもなのに、そしておそらくサンウの仕事がホソクの仕事を奪ったかもしれないのに、ミオクは率直に思うところをなんでも語って、当初はがちがちだったホソクも、別荘で感極まってわーん、くらいのところまで語ってくれて、そこまで喋ってくれたのであれば、お礼に、のような流れがあって、ここまでで十分よいドキュメンタリーになったのかも、と思いつつ映画はまだ続いて、酔っぱらってカラオケで騒いでホソクの箍が外れてそこらじゅうに放尿して…
もしもの愛、ひょっとしたらの愛の行方は、隔離されたビーチや山荘での惨劇ホラーになる可能性もやけくそ乱交ポルノになる可能性も孕みつつ、やっぱり互いの階層とその立ち位置を残酷なくらいに表に出してしまい、ミオクたちが出ていく形で終わって、それぞれの階層もそのポジションも揺らぐことなく元にもどる。親の代から管理人をしているという喋らない彼も含めて、何も変わることはない。 そんななかに少しだけあった「もしもの愛」。もちろんだーれも悪くない...?
約3時間、ドラマとしての緊張も、俳優たちの強めのテンションも途切れることはなく、何が起こるのかしら… ってページをめくっていくかんじで一気に見れてしまうのだが、本当にそれだけなの。 ヴェネツィアの貴族のみなさんにはブラヴォー!で心地よい作品だったことでしょうね。
11.04.2026
[film] Possible Love (2026)
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