1月7日、土曜日の午後、シネマート新宿で見ました。『ほの蒼き瞳』。
Netflixでも見れるやつだが、こういう真冬に震えそうなのは映画館の暗闇に籠って見たい、と。
原作はLouis Bayardの同名のベストセラー小説 (2003)。監督はScott Cooper、撮影はMasanobu Takayanagi。
1830年、ハドソン川の上の方、凍えるウェストポイント士官学校の敷地内で士官候補生が膝を曲げた不自然な首つり状態で吊るされているのが見つかって、一見自殺のように見えたものの検屍してみたところ心臓がくり抜かれていて、こんな猟奇的なのを公に出すのはちょっとやばい、と判断した学校の上層部は半引退状態だった捜査官のAugustus Landor (Christian Bale)を呼いつけて陰で捜査を依頼する。
過去にダウンタウンのギャングの捕物でそれなりの実績はあるらしいものの、妻に先立たれて、更に一人娘がいなくなった痛み - 彼女の姿が彼の脳裏に何度も浮かぶ - を抱え、酒に溺れて粗っぽいし危なっかしいLandorはまずこの事件の異常性に悪魔崇拝の影を見てとるのだが、横から現れて協力を申し出てきた士官候補生のEdgar Allan Poe (Harry Melling) – 後のゴス詩人ね - は、これは詩人の仕業だ、という。
始めはなんだこいつ? っていう目でPoeを見ていたLandorも亡くなっていた学生の手の中に握られていた紙片の解読でPoeを認めて一緒に捜査をしていくようになり、世捨て人の骨相学者(Robert Duvall)と話したり、更に被害者の遺したノートの解読 – 推理ドラマっぽく見えるのはこの辺くらい – などを通して、ふたりは学校の軍医Daniel Marquis (Toby Jones)の一家 - 妻のJulia (Gillian Anderson)、息子でやはり士官候補生のArtemus (Harry Lawtey)、病弱な娘のLea (Lucy Boynton)に目をつけるものの、決定的な証拠を見つけられずにいると、Poeが夜道で襲われたり、陰部を切り取られた第二の殺人が起こったりして…
Poeがこれは詩人の仕業だ、と言ったあたりでざわっと広がった想像の翼があまり広がらずに割と凡庸なところに落ちてしまった – ああなってこうなって - そうだったのか、しかない - のはちょっと勿体なくて残念で、あの一家がもっと強力に邪悪に悪魔悪魔していたら、Poeがもっとひどいところに落ちて嵌っていたらー、と思っていたら最後のほうでもうひとひねりくらいあった。
後にゴスの創始者総本山となるPoeの若き日が士官学校にあって(実際に生徒だった)、ここでの彼の経験がのちの『大鴉』 - 寒いところにカラスがうじゃうじゃいる - とか『モルグ街の殺人』における「探偵」とか、劇中で読みあげられたり参照されたりの"The Tell-Tale Heart"とか"Lenore"における「悲恋」の創造につながったのだ、となったらおもしろかったか、というと思っていたほどおもしろくなかったかも。ちょっと薄っぺらいかも。
文学者(or 文学を志す人)が人心の闇や悪魔的なあれこれに通じているので自らそちらに寄ったり犯罪に手を染めて堕ちていく、のはまだわかるのだが、事件を解決したり犯人を暴いたり、というのは別のパワーが、というかそれをやるにはその人自身の暗部をそれなりに掘り下げないとー。ジョージ・スマイリーが二重スパイを探り当てるのを「わかる」のはなんでか、って。
謎解きの過程で出てくる記号とか兆しとか、明るくわかり易すぎて、故にそんなに怖くない – 心臓くり抜いているのにそんなに怖くない、ってだめではないか?
というか、怖いのでいくよ、っていうどろどろゴスの方向とオチ(動機、きっかけ)がうまく整合していないような(そりゃ怖いけど方角がちがう)。あれが真相であるのなら最後にとんでもない極悪の化け物に登場してもらって士官学校の全員虐殺、建物ごと大爆破、しかないのではないか。
あと、士官学校の制服の明るすぎる青色とか、頭にのっけている変てこな兜? ヘルメット?とか、実際のがああだったのかもしれないけど、やっぱしなんか滑稽でー。
そして画面はもっともっと暗く、奥でなにが起こっているのかわかんなくなるくらいに暗くもやもやした方でよかったのに。TV放映を意識したのだろうか。
谷に落ちたChristian Baleは蝙蝠に会ってBatmanになって、Poeはカラスに会って大鴉を、と。
キャストはなんかとっても贅沢で無駄遣いのような。Charlotte Gainsbourgがバーの女将をやってるだけとか、Gillian Andersonが狂っているだけとか。
1.17.2023
[film] The Pale Blue Eye (2022)
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