1月12日の晩、シネマヴェーラの特集「ヌーヴェル・ヴァーグ前夜」で見ました。『情婦マノン』。
上映前に蓮實重彥氏のトークがついている。
人によってはそんなのあったりめーだ、だろうし、既に聞いた話もあるのだろうけど、このおじいさんのお話はなにを何度聞いても、話芸って呼べるくらいおもしろくてたまんない。
まずいきなり、2023年が始まって最大の謎はなんで自分がこのとても傑作とは思えないような半端な作品の前口上をしなければならないのか、などぶつぶつ言いだし、それでも中学生の頃、恵比寿にあったエビス本庄という映画館でルネ・クレールを始めとする洋画を見まくっていた時代(いいなー)にこの映画を見た、ということ、このぼろくて、でも忘れがたい映画館の思い出から、この同じ映画館の外で父親と一緒に出てくるのを待っていた人、というのが当時国立国会図書館の初代副館長だった中井正一氏で、氏を訪ねて小学五年生の蓮實少年が迎賓館(国会図書館はここにあった)の扉を叩いたとか、すごいなー、っていう夢のような昔話。
さて”Manon”。監督はHenri-Georges Clouzot、Abbé Prévostの小説 “Manon Lescaut” (1731)の舞台を第二次大戦下のヨーロッパに持ってきていて、ヴェネツィアで金獅子賞を受賞している。 「マノン」というとまずはKenneth MacMillanの振付によるバレエ、だったのでこのストーリー展開にはややびっくりしたかも。
冒頭、パレスチナ(イスラエル)に向かう貨物船にユダヤ人の難民家族たちが(おそらく闇で)大勢乗り込んでいて、そのうちそこの貨物室に潜りこんでいたRobert (Michel Auclair)とManon Lescaut (Cécile Aubry)のふたりが発見され、通報するから、って言われるのだがまずは自分たちの話を聞いてほしい、とRobertが語り始める。
戦時下のノルマンディーで、レジスタンスだったRobertはドイツ人相手に寝たって責められている情婦のManonを助けて解放直後のパリに移って、ふたりで一緒に堅気として生きようとするのだが、Manonは享楽的な暮らしを捨てられずにぐだぐだで、でもRobertも彼女を見切ることができなくて、彼女を裕福なアメリカ人と強引にくっつけようとしていた彼女の兄のLeon (Serge Reggiani)を殺してパリを発つ列車に乗ると、彼女もついてきた(列車のなかをかき分けていくシーンがすごい)、と。
身の上話を聞いた船長は、ユダヤ人が降りる時にお前らも行け、って黙ってリリースしてくれるのだが、ほんとうの地獄はここからで、砂漠の果てなき行軍とアラブ人部隊による容赦ない掃射が待っているのだった…
当時18歳のCécile AubryのManonはあまりファム・ファタールぽさはなくて、どちらかというとRobertのせっかちで単細胞な愚鈍さの方が目についた、というか、目につくつかないでいうと、当時の蓮實少年を興奮させたという彼女の左側の乳房の見える見えないのことが気になってしまったのはよくなかったかも。
とにかく、船→戦争(ノルマンディー)→栄華(パリ)→列車→船を降りる→徒歩地獄(砂漠)→あーめん、という目くるめく移動スペクタクルのなかにこの男女のドラマを織りこんでしまったのは、すごいと思いつつも、どうなのかしら、って。
La signora di tutti (1934)
1月14日、土曜日の昼に見ました。 邦題は『永遠のガビー』、英語題は“Everybody's Woman“。
Max Ophülsがイタリアで撮った作品。
冒頭、ホテルの一室でGaby Doriot (Isa Miranda)が倒れているのが発見され、ERに搬送された彼女の頭に全身麻酔の蓋いが上から覆いかぶさってくるところから回想が始まる。
Gabyはずっと男にもてもてで、学校の音楽教師は彼女に狂ってクビになり、地元の実業家Leonardo Nanni (Memo Benassi)の息子のRoberto (Friedrich Benfer)に声をかけられてパーティに参加してダンスするとふたりは簡単に恋におちて、Robertの母で車椅子生活のAlma (Tatyana Pavlova)もGabyを気に入ってお屋敷で一緒に暮し始めるのだが、Robertが旅行に出た隙に、今度はLeonardoが彼女を好きになってあちこち連れまわすようになり、ひとり残されたAlmaは悲惨な死に方をして(屋外の移動撮影から流れて階段から落っこちるとこまで、とてつもないテンション)、Leonardoはそんなの構わずGabyを連れてヨーロッパを旅するうち彼女は芸能界デビューして人気者になり、他方でLeonardoは遊んでんじゃねえ、って横領で告発されて、牢屋に入れられて出てきたら車に轢かれて、やっぱりRobertしかいないかも、って振り返ると彼はとうに自分の妹と一緒になっていて…
これが日本だったら『西鶴一代女』みたいになるのやろか、というくらい男に群がられてばかりで全体としては悲惨で、最後に残ったのは歌とチラシ(最後に輪転機が止まっておわる)だけ、みたいなお話なのだが、口説いたり拒んだりのねちねちした修羅場ぽいところをきれいに回避してカメラの動きと音楽をぐるぐる回し続けて、「みんなのGaby」の因果のありようを示してしまうところはすごいなー、って。
今週金曜日で終わってしまうこの特集、思っていたよりも全然見ることができなくて悲しい。特にMax Ophülsあたり。またいつかきっと。
1.24.2023
[film] Manon (1949) +
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