2.08.2022

[film] CODA (2021)

1月30日、日曜日の午後、新宿のWalt9で見ました。
前の晩に”TITANE”を見て、あとほんの少しだけ家族のよい話がほしいかも、とか。

フランス映画 - “La Famille Bélier” (2014) -『エール!』-未見- をSian Hederが脚色・監督して昨年のサンダンスでいろいろ受賞して、オスカーの作品賞までノミネートされているUS、フランス、カナダ合作映画。

“Coda”というと自分にとってはLed Zeppelinの最終楽章で、あれはジャケットを一瞬見ただけであたまの中で"Bonzo's Montreux"がどすどす鳴り出したりするのだが、もちろんまったく関係ない。ここでの”CODA”は“Child of Deaf Adult”のこと。

マサチューセッツのGloucester(英国から渡ってきた人々の街ね)で高校生のRuby (Emilia Jones)は早朝から自分ちの船で父Frank (Troy Kotsur)や兄Leo (Daniel Durant)と漁に出るのを手伝って、港に戻ってくると魚の競りも含めた交渉事をやったりしている。彼女の家族は母 - Jackie (Marlee Matlin)も含めて彼女以外は全員聴覚障害者なので彼女の手話による通訳がないと仕事ができない – ずっとこのやり方でやってきているので、家族全員が明るくさばさばそういうもん、程度で。

漁をしながら大声で歌うのが好きだったし、ちょっとよいと思ったMiles (Ferdia Walsh-Peelo)がエントリーしているのを見て学校の部活はコーラス部に入ることにする。教師のBernardo Villalobos (Eugenio Derbez)はやや癖があるかんじなのだが、RubyとMilesの歌の才能を見抜いて、ふたりにデュエットしてもらうから、って活動後の補講をやるようになって、ふたりの仲がよくなっていくのと、歌のタレントを認められてその歓びに目覚めてバークレーに行けるかも、になっていくのと、反対側で家業の漁の仕事はやなかんじの仲買人を通さずに自分たちで直売できる仕組みを考えよう、っていう試みのなかでRubyへの負荷と期待が高くなっていくのと、が同時に起こって、自分のこれからと家族のこと、どっちをどうしたいの/どうするの、になっていく。

家族はオオスジのタテマエではこれはお前の人生なんだから、というのだが、現実には彼女がいないとうまくいかないところも多くて、実際に彼女がいない時に監査が入って操業停止まで勧告されたり、お互いのストレスをわかっていながら変な(or 当然の)意地をはって結果双方疲れて嫌になって - 誰もなんにもわるくないのに。

邦題には『あいのうた』 -なんでひらがな? - って付いているけど、うたや音楽がみんなの危機を救ったとかそういうぼんやり暖かいお話しではなくて(そう思っても別にいいけど) – うたはまず家族の分断を引き起こしたきっかけとしてあって、そもそも音楽がどういうものか(不寛容以前のところで)理解できない家族とどう折り合いをつけたか、つけることができたのか、という家族の人情噺なのだと思った。(十分に暗くて辛い)家族の役割や歴史をきっちり押さえつつ、べったべたのえぐみたっぷりに描く人情噺ではなくて、スラップスティックに近いかたちでなんだかうまく収まってしまったことに誰もが驚き、ちょっと泣いて笑顔になれる、そういうやつ。

ものすごくダークに、例えば漁のところを”Leviathan” (2012)のようなぐちゃにちゃの閉塞感満載にして、それを延伸して突っ走るのもありかも、と思ったけど、そんなの誰もみないか…

聞こえない側と聞こえている側、それぞれの感覚をきちんと描いて、聞こえる側が歌ったり流したりする音楽が地味に素敵なのもよかった。頻繁に流れる”You're All I Need To Get By”も、真ん中くらいで少しだけ流れて、この曲だわ!って思っていたら最後にきちんとやってくれた”Both Sides Now”もどちらも大好き。響き渡る不朽の名曲が一網打尽にするというより、こんな小さな曲だからこそすぐそこに届いてノックした、そういう距離の近さ。

最後の試験のとこはなんだか”Flashdance” (1983)を思い出してつい力瘤が。

アンサンブルもよくて、Rubyはうまいし、パパのTroy Kotsur(祝!助演賞ノミネート)はよいし、Miles役は“Sing Street” (2016)に出ていた彼だし。先生役の人も悪くないけど、もっと押しとアクの強そうなHarry Connick Jr.とかLin-Manuel Mirandaとかだったらなー、とか。

続編はRubyが家族のみんなにやっぱり音楽をわかってもらおうと、バンドを組んでヒップホップかデスメタルに向かうやつに。
 

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