2月12日、土曜日の午後、新宿武蔵野館で見ました。
『シチリアを征服したクマ王国の物語』 - 英語題は”The Bears' Famous Invasion of Sicily”。
“The United States vs. Billie Holiday”を見た後に『クマ王国 vs. ヒト王国』を見る。
原作はイタリアのディーノ・ブッツァーティ(Dino Buzzati)が1945年に発表した児童文学(未読)のフランス・イタリア合作によるアニメーション。
脚本・監督はイタリアのイラストレーター/バンドデシネ作家のLorenzo Mattotti、製作は『レッドタートル ある島の物語』を手がけたPrima Linea Productions - 最近だと“The French Dispatch”のアニメーションパートにも関わっている。
ヨーロッパのアニメーションの柔らかい夢の中で動いているようなかんじをカラフルでマットな色彩のなかで実現している。アニメーションの表現様式に新しい何かを求めているわけではないので、絵本の世界が緩やかにこちらに向かってくるようなこの感覚はなんか嬉しい。
旅芸人のジェデオンとアルメリーナが山越えの途中で吹雪にあって洞窟に逃げ込んだらその奥から冬眠の途中らしいでっかい老クマが現れてふたりの前にどっしりと座る。食べられたくないふたりは「シチリアを征服したクマ王国の物語」を紙芝居ふうに語り始めるの。
平和に暮らしていたクマの国の王レオンスがこぐまのトニオに魚の取り方を教えていた時、トニオは網で捕らえられてどこかに連れ去られてしまう。悲しみに暮れるレオンスに、長老クマが人間の暮らすシチリアに行けばトニオが見つかるかもしれないと進言して、王はクマの大群を引き連れてシチリアを目指して出発して、シチリアの街を治める人間の大公は、魔術師デ・アンブロジスからクマの群れの到来を知らされると奇襲をかけて友好的に挨拶しはじめた長老を殺してしまう。
レオンスは近づいてきた魔術師に交渉してトニオを探してくれと頼むが、魔術師は自分の使える魔法の数は限られているからと断って逃げて、その後も猪とか化け猫とか、ヒトとクマの駆け引きは続くもののクマは負けなくて、ようやくサーカスに出ていたトニオと再会したら大公がトニオを殺しちゃって、でも魔術がトニオを生き返らせて大公は殺されて、レオンスがシチリアの王になってめでたしめでたし。
ジェデオンがではこれにて.. って退散しようとすると老クマが、いやまだこの先があるのじゃ、って勝手に語り始めるので逆らえず..
この後は盗まれた魔術師の杖を巡って、ヒトがわるいクマがわるい、の表に裏にの騙し合い化かし合いになり、実際にどちらにも悪いのはいるしよいのもいるし、トニオが活躍するのだがレオンスはー。
いまのシチリアをクマが支配していないことから分かるようにクマとヒトの共存・共生はうまくいかなかった(きっと食べ物とか冬眠をめぐる税制とかでなんかあった気がする)、その訳と事情をカルヴィーノやフェリーニのようなイタリア法螺咄のてきとーな語り(大好き)でぺらぺら並べて、学びや教訓のひとつも残していかないのは素敵。でも、やっぱり一緒になれなかったんだね.. っていうちょっとした寂しさつまんなさは残る。(これが宮崎アニメだとやっぱり泣きながら最後まで殺し合って白黒はっきりさせて、なのに生きろ! とかわけわかんないこというの。勘弁して)
子熊をサーカス用に捕まえて持っていっちゃうのも、それを取り返そうと乗りこんでいくのも、そうやって向こうから来たのを侵攻だって騒いで戦争にしちゃうのも、権力が行き渡ったあとで、腐敗や謀略が蔓延ってまた乱れてごたごたするのも、そんな統治や平和を巡って当たり前のように数千年も繰り返されてきたことをクマとヒトの間の諍いに転写して、シンプルなアニメーションにしてみることで、なんだろうねえこれ、になる。 ヒト同士の、民族間の争いだって、互いに相手をクマだと思ってやっているんだろうな、とか。
でもやっぱりクマの方が高尚で穏やかでちゃんとしているよね。そしてそんなクマたちが冬眠できなくなっているのだとしたら、いまの世の中相当にやばいとしか。
洞窟にいた老クマは誰だったのか? 洞窟の奥に行ってみたアルメリーナが見たものは.. ? これが続編 -「地底を征服して温暖化で地上を壊滅させたクマ王国の物語」だっ。
2.20.2022
[film] La fameuse invasion des ours en Sicile (2019)
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