1月22日、土曜日の午後、National Theatre Liveの上映をしているシネリーブル池袋で見ました。休憩2回の全3時間半。
イタリアの劇作家Stefano Massiniによる三幕劇をBen Powerが脚色してSam Mendesが演出したもの。2013年にフランスでプレミアされて2015年にイタリア版(演出はLuca Ronconi)が上演されて、2018年にNational Theatreに来て(ここからSam Mendes版)、その後でNYのPark Avenue Armory → Broadwayに行って、その後にWest Endに戻ってきた。NTLの撮影はWest Endのそれで、これを上演しているシアターを横目で見ながら毎週土曜日、古本屋に通っていたことを思いだす..
冒頭、2008年のLehman Brothersの経営破綻前夜(あと数時間で..)のニュース音声ががらんとしたオフィスに響いている。
1840年代、ドイツのバイエルンからアメリカに渡ってきた3人の兄弟 – Henry (Simon Russell Beale), Emanuel (Ben Miles), Mayer (Adam Godley)のLehmansが、アラバマ州モンゴメリーで雑貨店を開いて、地元の綿花の売買、銀行、コーヒー、鉄道事業からパナマ運河まで事業を拡大してでっかくなっていく様を3名の男性俳優 - Simon Russell Beale, Ben Miles, Adam Godleyのみで、開祖の3人から出てきた子孫 – 特にEmanuelの息子Philip (Beale)、Philipの息子Bobby (Godley)、Mayerの息子Herbert (Lester) あたりまで - みんなWikiとかに載ってる偉人だよ - さらに花嫁たちから関係者までぜんぶこの3人が演じ分けている。また、舞台の袖のピアノで絶妙な合いの手となるライブの伴奏をつけて160年間を走り抜けるCandida Caldicotさんも、第四の演者として休憩時間に紹介されていた。音楽はNick Powell。
セットは全幕を通して宙に浮かんだような仕様のガラスの箱で、この中で兄弟たちは生きて動いて、ここに兄弟たちが書きこむ手書き文字が看板となり目標となり取引メモとなり、積まれた箱がオフィスを形作り、このガラスの仕掛けが回転しながら周囲のいろんなものを反射させて鏡のようにその奥行を無限に増幅しながら拡がっていく。資産がどれだけでっかくなっていっても量的に重くのしかかってこない - その内部にいたとしても。
一族の、王朝のドラマとして、あってもおかしくない血生臭い抗争や苦渋に満ちた愛憎が壮大かつドラマチックな劇画調で描かれることはなく、ユダヤ系移民一家がどんなふうに置かれた境遇を受け容れ、知恵を絞ったり閃いたりしながらそのビジネスを広げていったのか、いろんなエピソードを挟みながらユーモラスに寓話風に綴っていく。奴隷制度をうまく利用した綿の売買にしても、大恐慌時のパニックにしても、歴史の断面としてありうる悲劇的なところを周到に避けて、知らんぷりして乗り切りましたー、くらい。
ここは作者と演出家がヨーロッパと英国の出であることも関係しているのかもしれないが、従来の「アメリカン・ドリーム」の積み上げ山盛り方式の描きかたとは随分違う。おもしろいけどあんま替わり映えしないいくつかの漫画っぽいキャラクターたちが、同じような書割のなかで同じような仕草や表情でじゃんけんやビンゴをやっているかのように勝ちあがっていく。この辺、映画の世界でWes Andersonがオールスターキャストでカラフル絢爛に展開する史劇コメディと表裏のようなかんじもする。Wesの場合は、アメリカ人がヨーロッパを描く、というところも対照的だし。
でも、なんであんなふうに事業領域とかビジネスを広げていったのか/いけたのか、なんでそれらが突然あっけなく破綻して消えてしまったのか、この劇を見てもあんまよくわかんないの。演者をミニマムにして、装置を限りなくシンプルにして、結果的に示されているのはそういう空虚としか言いようのないなにかが回転したり稼働したり停止したりしているさまで、最後にめまぐるしい光量のプロジェクションが走馬灯のように回っていった後、ガラスの箱には放心状態になった我々観客自身の顔が映っている。
でも、想像していたような難しさ取っ付きにくさがなくて軽いのはよかったかも。
2.01.2022
[theatre] The Lehman Trilogy (2019) - National Theatre Live
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