2.13.2022

[film] 好人好日 (1961)

2月6日、日曜日の昼、神保町シアターの淡島千景特集から2本見ました。

好人好日 (1961)

中野実の原作を松山善三とが渋谷実が脚色して渋谷実が監督している(あー、また『もず』を見れなかった…)。音楽は黛敏郎。文房具のイラストが素敵なタイトルバックは真鍋博。

冒頭、登紀子(岩下志麻)が奈良の大仏さんに向かって「大仏さん!」て話しかけて彼女の置かれた事情が明らかになる。父の尾関等(笠智衆)は大学の数学の教授で変人で、お母さんは万能の節子(淡島千景)で自分は「みんなは佐田啓二に似てるって言うけど私はグレゴリー・ペックに似てると思う」という同じ職場の佐竹竜二(川津祐介)と結婚したいけど万事うまくいきますように。あといまの両親はほんとうのお父さんお母さんじゃないの、と。

尾関等には実在のモデル(数学者の岡潔)がいるらしいが、数学のことしか頭にないと言う割には近所のコーヒー屋に入り浸ってTVの野球中継ばかり見ていたり、晴れでも長靴履いていたり、学者なのに自宅に机ないの? とか、いきなり白ウサギ貰ってきたり(あのウサギどこにいったの?)、プリンストンからの招聘の話を断ったり、とにかくとっても変。

佐竹の家はお徳婆さま(北林谷栄)が厳格に仕切る慶長以来続く墨屋で、なにかあると分家の筆屋と蝋燭屋に指令が飛んでいくのでえらく大変で、そんなところに変人数学者の家でしかも貰い子の登紀子が嫁ぐことができるのか。

というのと尾関が文化勲章を貰うというので夫婦で上京して、昔馴染みの高峰三枝子と会ってやはり昔馴染のぼろ旅館に泊まったら夜中に三木のり平のこそ泥に勲章盗られちゃったり(金目のものを持ってけ、とか泥棒に指導する)いろいろあって、でも終わりは雑にどうとでもなる系なので安心して笑っていられる。

でもやっぱりいちばん偉いのって節子=淡島千景だよねえ。尾関にあんなに好き放題させて、自分はたまにお酒かっくらって気持ちよくなれればいいのだ、って。それをこんなふうな美談にしてへらへら語ってきた(それを見にきているのも毎度のじじいばかり)この文化圏生活圏のどうしようもなさときたらどうしたらよいものかー、っていつもの。

主人公の笠智衆をおもしろおかしく見せる映画なのだろうが、rom-comとしては結婚するふたりがもう少し切実に真剣に恋してくれたらなー、ていうのは少し思った。あの状態だとどっちの家からもじわじわ攻められて別れることになる気がする。

笠智衆と岩下志麻の父娘、だと『秋刀魚の味』(1962)があるし、奈良に暮らす結婚を前にした父娘のお話、というと『月は上りぬ 』(1955)があって、どっちもよいけど、笠智衆は枯れていそうでいてとにかく強くてしぶといやつ、っていう印象がー。


縞の背広の親分衆 (1961)

原作は八住利雄、監督は川島雄三。『赤坂の姉妹より 夜の肌』に続けてこんなのを撮っているなんて。
タイトルバックで森繁がねっとりと歌う「べサメムーチョ」がたまんない。

埠頭に降りたった守野圭助(森繁久弥)は森の石松の末裔で、大鳥組の兄分だったが人を殺めて(実はただの傷害事件だったことが後でわかる)で15年間、南米に高飛びしていて、戻ってみると組の守り本尊のお狸さまは高速道路の工事で取り壊しの話が出ているし、組は亡くなった大親分の女房のおしま(淡島千景)と子分で住職の浄慈 - スモーキー・ジョー(フランキー堺)と桂小金治くらいしかいない零落ぶりでしょうもない。 後継になってほしい良一(田浦正巳)は道路公団の技師だし、その妹でビートガールの万里子(団令子)は花売りをしながら敵対する風月組の風月三治(有島一郎)のバカ息子・シゲル(ジェリー藤尾)と猫みたいなシマ争いをしていたり。

しょうがないので圭助は賭博の現行犯で留置所に入ったり、昔の愛人を頼ってクレーム係として就職した象屋デパート(のCMソング by 松井八郎 - がすごい)で口八丁で成功したりしていると、お狸さまの迂回か取り壊しかの騒動は政界と道路公団とヤクザとチンピラを巻き込んだ大ごとになっていて、やいやいやい! って揃いの縞の背広で騒動に突っ込んでいくの。

あれこれ沸いたり降ったりが賑やかなノンストップのスラップスティック任侠コメディで、でも淡島千景と森繁久弥とフランキー堺が固めているし、反対側には有島一郎とか西村晃とか渥美清がいるので、多少ばらけていても安心して見ていられて楽しい。

マキノ雅弘の『次郎長三国志』の『海道一の暴れん坊』(1954)の石松=森繁久彌がものすごく、泣きたくなるくらいに好きなので、その末裔として森繁がそのまま出てくるのはふつうに嬉しい。ついでに越路吹雪も出てくればよかったのになー。

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