1.18.2022

[film] Zu neuen Ufern (1937)

シネマヴェーラの特集 -『Strangers in Hollywood1』で見た何本かの感想つづき。

Summer Storm (1944) -『夏の嵐』

12月30日、木曜日の午後に見ました。監督はダグラス・サーク。
原作はチェーホフの長編小説”The Shooting Party” (1884) -『猟場の悲劇』(未読)。

ロシア革命直後、ぼろい風体で落ちぶれた貴族のVolsky (Edward Everett Horton)が出版社で旧知らしいNadena Kalenin(Anna Lee)のところに現れて、Fedor Petroff (George Sanders)の原稿だ、と紙の束を渡すとNadenaはぴくっとなって、そこから回想が始まる。

帝政ロシア末期。判事のFedorはNadenaと婚約していながら奔放な木こりの娘Olga (Linda Darnell)に惹かれて、生活のために父親のアレンジでださい男と結婚したOlgaはいろいろ我慢できずにFedorやVolskyを誘惑しては彼らを踏み台にのしあがろうとして、それでFedorは婚約を解消しちゃったり、暴走するOlgaと堕落した貴族の男たちは革命と一緒に破滅に向かってまっしぐらで、やがてすべては夢の趾、みたいな。Linda Darnellの猛々しい魅力が貴族をなぎ倒して焼野原にしていくところが痛快で誰ひとり可哀想に見えなくて、夏の嵐だなあ、って。


Week-End with Father (1951) -『ステキなパパの作り方』

これもダグラス・サークで、こんな軽いどたばたファミリーコメディ – National Lampoonみたいなの - まで撮っていたの? ってびっくり。

NYで男の子2人と犬を飼うシングルマザーJean (Patricia Neal)と、女の子2人と犬を飼うシングルファーザーのBrad (Van Heflin)が、サマーキャンプに出掛ける子ども達を見送る雑踏のなかで出会って、育児から解放された状態でするする恋におちて結婚しよう、となり、週末に互いの子供たちに会ってちゃんと言おうか、ってキャンプに赴いたところであちこち火を噴いて巻き起こる騒動 – 子供同士の抗争から追ってきたパパの恋人まで - 誰がどうしたってそんなの巻き起こるに決まってるやつを描いて、最後は山中の大捜索までいって、こんなのもたった83分で収めてしまう。どれくらいの期間で作っちゃったのか知らんが、驚異的。

でもなんで”Week-End with Father”で、”Week-End with Mother”じゃないのか?  
パパの方がしょうもなくてだらしないから、たぶん。


La Habanera (1937) - 『南の誘惑』

1月2日の年明けのダグラス・サーク2本。 これは彼のドイツ時代最後の作品で、監督名はDetlef Sierck。

スウェーデンからプエルトリコに観光でやってきた貴族階級の伯母と姪のAstrée (Zarah Leander)がいて、伯母は南国はもういいや、って帰ることにするのだが、帰国直前に流れていた”La Habanera”の歌に幻惑されたAstréeは出帆直前の船からとび降りて地元の名士Don Pedro (Ferdinand Marian)と結婚して、でもこいつは嫉妬深いDV野郎ですぐに愛も冷めて、Don Pedroは子供を人質にしてAstréeを縛っている。

10年後のストックホルムでプエルトリコの熱病を調査すべくAstréeのかつての恋人Dr. Sven Nagel (Karl Martell)ともうひとりが現地に赴くことになって、伯母さんはAstréeを連れ戻すように依頼するのだが、島に赴いた彼らが見たものは..   パンデミックとそれを隠蔽し続けてきた地主たちの策謀の渦、そしてAstréeの恋の運命やいかに!  北国と南国を結んでものすごい寒暖差で吹きまくるメロドラマ。 


Zu neuen Ufern (1937)  - 『世界の涯に』  


英語題は”To New Shores”。

1846年、ロンドンのAdelphi TheatreでGloria Vane (Zarah Leander)は歌手として大成功していたのに、恋人のAlbert Finsbury卿 (Willy Birgel)がオーストラリアの将校として赴く前日、友人の小切手にずるをして着服した罪を - 彼をとにかく愛して信じていたし彼の将来のことを思って - ひっ被って捕まってオーストラリアに流刑になる。

オーストラリアでAlbertは順調に昇進して将軍の娘と婚約して医師の妻とも不倫して順風満帆、Gloriaは服役しながらAlbertに手紙を書き続けて、でも無視され続けて、現地男性と結婚すれば釈放されるというので、彼女を見初めた農家のHenry (Viktor Staal)と結婚することにして、Henryもとってもよい人なので悩ましくて裏切ることができなくて、そんなGloriaとAlbertとHenryの運命が世界の涯で交錯するー。

どちらの作品でも歌で世界を痺れさせるZarah Leanderが”La Habanera”では異国に留まる選択をして、”Zu neuen Ufern”では異国 - 流刑地に向かう選択をして、でもその相手ときたらどちらも邪悪なろくでなしで、でも彼女はひたすら恋を、恋がどこかにあることを信じていた..  って。こんなに歌が切なく響いてくるメロドラマがあろうか、っていうやつ、というかこういうのをメロドラマっていうんだわ、ってじんわり。

(あと1回つづく)

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