1.07.2022

[film] Bergman Island (2021)

12月28日、火曜日の昼、Apple TVで見ました。もうじゅうぶん冬休みモードで夏の映画を。

Mia Hansen-Løveの新作で、フランスの外で撮られて、英米の俳優を使った英語ベースのドラマ、って彼女にとって初めてではないか。

舞台はIngmar Bergmanが暮らし、何本もの映画を撮り、亡くなった家があるファロ(Fårö)島で、ここって2018年のBFIのBergman生誕100周年特集で彼の撮った島のドキュメンタリーを数本見て、いつだったかのThe New Yorker FestivalでGreta GerwigとNoah Baumbachのふたりがファロを訪れてものすごくインスパイアされて楽しかった!と語っていたのでいつかは行かねば、のリストに入っている場所で、でもそれを映画に仕あげたのはもうひとつの映画作家カップルの方 - Mia Hansen-Løve (& Olivier Assayas) - だった、と。

いまや観光名所になっている夏のファロにアメリカの映画作家のTony (Tim Roth) とChris (Vicky Krieps)の夫婦がレジデンシープログラムで訪れて滞在して、Bergmanの暮らした家とか「ある結婚の風景」が構想された寝室 – この映画によりものすごい数の離婚が成立しましたって – とか、6人の女性との間に9人の子供をもうけた男の「創作」の秘密なんぞを覗いたり聞いたり想像したり、Bergmanサファリとか夜には35mmプリントによる上映会 – ここを訪れるくらいのファンが改めて『叫びとささやき』なんて見たいかしら? - とか、観光を楽しみつつ、TonyもChrisも自分の映画の脚本を書くのに追われていて、行動も一般ツーリストのツアーに参加するTonyに対してひとりでふらふらするChris、とばらばらでそのうちTonyは用事ができて帰っちゃったり。

そのうち物語にはここでChrisが書きだした脚本 – なかなか書けないことをTonyに向かって言ったりしていた - の話が絡まってくる。この島を友人の結婚式で訪れたAmy (Mia Wasikowska)と彼女のかつての初恋の彼 - Joseph (Anders Danielsen Lie)のことで、再会の喜びとか結婚式の開放的な雰囲気とかもあってふたりは再び関係をもったりして、そこにChrisがファロの観光で出会った地元の青年も絡めたり、そんなにどうってことないお話なの。ChrisとAmyの間に例えば”Persona” (1962)のBibi AnderssonとLiv Ullmannの関係に近いものを見ようと思えば... でもやっぱり関係ないか。

Bergmanの島に来た(おそらくBergmanのファンの)映画作家であるなら、孤絶した島で人と人、人と悪魔、人と獣の情念と妄執が織りなすどろどろドラマを創ってきたBergmanへのオマージュに満ち満ちたやつを書いたっておかしくないのに、ぜんぜんそっちの方には向かわず、(意地悪く言えば緩く甘く)しれっと軽いラブコメみたいのを書いてしまうChrisが素敵で – たぶんこんな島に来て暮らしたって自分の創作を理由に(ひとりじゃなにもできないくせに)家事も育児にも一切関わろうとせずに泰然としていた「大作家」へのばっかじゃねーの、をやっている、と見てよいのかも。

このへん、デビュー作の”All Is Forgiven” (2007)から”Eden” (2014)から”Things to Come” (2016)まで連なるMia Hansen-Løveのストーリーテリングだなあ、って。どこかでパーソナルなことが曝されてしまうような、彼女からの手紙のように読めてしまうような、そんな語りの柔らかさがあるの。そしてこのスタイルこそがBergman的な闇(って言っていいよね)が覆いつくす世界のありよう(イメージ)を突き崩すなにかになりうるのではないか。 というふうに見ることもできれば、これは『夏の夜は三たび微笑む』(1955)系のやつを狙ってみた、と言えないことないような。

Bergmanへの参照はあちこちに出てくるのだが、『ファニーとアレクサンデル』(1982)のあれが出てきたのはちょっと嬉しかったり。それにしても、BFIでの特集のときに感じたのだが、Bergmanの映画って暗い怖い言われながらもほんとにすごい人気があって、これってどういうことなのか、みんなほんとうに暗いのか、彼の映画ってそもそもそんなやつなのかも。

Chris役のVicky Kriepsさん、こないだの”Old”は見逃して、”Phantom Thread”(2017)以来だったけど、よいなー。Tim Rothに島の毒キノコを食べさせてやってもよかったのに。

音楽はコンポーザーはいなくて、挿入歌でABBA(スウェーデンだから)の“The Winner Takes It All”とかThe Go-Betweensの“You Won't Find It Again”とか。The Go-Betweensが流れる映画にわるいのはないの。



“Spider-Man: No Way Home”を見てきてじーんとしている。2002年の”Spider-Man”から20年、ずっと見続けてきてほんとうによかった。


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