1.25.2022

[film] Escape from New York (1981)

4Kレストア版によるJohn Carpenterの『ジョン・カーペンター レトロスペクティブ2022』- 3本の上映でもレトロスペクティブ。邦題は『ニューヨーク1997』。

4Kでどんなに綺麗にレストアしたって、その画面の一寸先は闇の、奥の方を凝視するのを躊躇わせるやばい胡散臭さは変わらない。その状態に置かれた時に先に進むのをやめて見なかったことにするかどうするのかを問うてくる3本で、もう行くしかないのか、って決意したときに、あの不穏なシンセの音が背後で鳴りだすの。つまり、映画館に向かう我々は自身がSnakeであり、Nadaになっているの。

Escape from New York (1981)

1月12日、水曜日の晩、ヒューマントラストシネマの有楽町で見ました。

1988年、犯罪発生率が400%を超えてしまったので、政府はマンハッタン島を厳重装備を敷いた監獄島にして、終身刑を告げられた罪人をここに送って、送られた囚人は高い壁と地雷と監視カメラで逃げられなくて、逃げようとしてもすぐに殺されることになっている。

1997年、ハートフォードのサミットに向かう途中だった合衆国大統領The President (Donald Pleasance)の乗ったエアフォース・ワンがハイジャックされてマンハッタンに不時着して大統領は拉致されて、警視総監(Lee Van Cleef)は銀行を襲ってマンハッタンに輸送されるところだった元兵士のSnake Plissken (Kurt Russell)に取引を持ちかける。 大統領を生きて救出できたら恩赦で自由にしてあげる、首に小型爆弾を仕込んだのでリミットは22時間、変なことをしようとしてもリモートで爆発させることができる、やる?やらない? 

やるしかないのでやるけどぜんぜんやる気なし - 救う価値ゼロの野郎 - 大統領を救う - の仕事を受けてグライダーでワールドトレードセンターの屋上になんとか降り立つ。マンハッタンは極悪のボス- the Duke (Issac Hayes)と“crazies”と呼ばれる狂ったチンピラが牛耳っていて、タクシー運転手(Ernest Borgnine)とか技術者(Harry Dean Stanton)とか一緒にDukeのところに囚われていると思われる大統領を探し始めて..

80年代のこんな設定のドラマなのでSnakeが最後になんとかしてくれるであろうことは当時でもすぐわかったのだが、とにかくこんなに後ろ向きでクソみたいな仕事はないしさいてー、なので、例えばMad Max的な痛快さのようなのを期待していくとちっとも、で、ドラマのほとんどは夜の闇のなかの終わらない悪夢のようで、奥のほうも背後ももやもやしてよくわかんないし、出てくるのは変態とか狂人とかそんなのばかり、救出するのもハゲのデブだし、とにかくぜんぶひどいのに、それでもどうしてSnakeは? というのを自分にずっと聞いていくことになる。毎朝の通勤電車に乗るときとおなじように。

で、ラストの、遠くの闇の奥からどこまでも追っかけてくるDukeの悪夢としか言いようのない底なしのおっかなさ。この狂った冷たさに浸る(なぜそれを求めるのか)ためにJohn Carpenterを見るんだわ、って改めて思ったり。


They Live (1988)

見たのは1月20日の晩、おなじくヒューマントラストシネマの有楽町で。こんな作品を「ヒューマントラスト」なんて名前のついた映画館で見るって、なかなかよくできた冗談だわ。

マンハッタンが監獄島になった年に西海岸で確認された異常事態を描いたカルトSF。原作はRay Nelsonの短編 - “Eight O'Clock in the Morning" (1963)。

2019年に映画のリリース30周年を記念してRough Trade Booksから出た冊子 - “They Live: A Cultural & Visual Awakening”を見返したいのだがどこにいったのか出てきてくれなくてー。

日雇い人夫としてLAに流れてきたNada (Roddy Piper)は建設現場での仕事を見つけて、そこで知り合ったFrank (Keith David)の紹介で炊き出しをしている施設に入れてもらうのだが、街では宣教師が「彼ら」のことを言っていたり乗っ取っているらしい海賊TVでも「気をつけろ」とか言っていて、そんななかで手に入れたサングラスをかけてみたら人じゃない何かとか見えない看板メッセージとかが見えて…

普段ふつうに見ている/見えていると思っていたものが、別の人相とか標識として見えてしまったとき/見えなかったものが見えてしまった時、ひとはどう行動するのか。サングラスの方を疑ってもおかしくないのだが、普段見ている現実の方がおかしいと思った - その原因は心理学の方で掘ったほうがよいのかもしれないのだが、でもここでは、やっぱりそういうことだったのかー、ってなって、そのやばいぞ、っていう直感がNadaたちを動かしていく、その明快さはとってもB級ぽいのだが、そんなことよりも、ここで説明された現実の、支配や権力のありようがとっても納得できてしまう - そしてちっとも古くなっていないことの方が - 誰もが言っているように「衝撃」なんだわ。 They Live.  They Are Still Living..

もちろんこんなのは、ノストラダムスの頃から(それよりずっと前から)あるいろんな陰謀論のひとつで、最近だとSNSを仕込んだのも、ダイバーシティもSDGsもBLMもコロナもワクチンも、2021年1月6日のもぜーんぶ連中 - “They”の仕業に違いないに決まっている、のかもしれない。 が、陰謀論がどうして陰謀論として人々を捕えて虜にして社会を蝕むのか、そこまで踏み込んだまるごとの病理として全体の腐っていくさまを示しているところがすごい。 それを熟慮の果ての終末の絵姿として描くのではなく、ラストにNadaが中指を突っ立てるばーかくそったれ、のB級の勢いで殴り書きしたところがかっこよいったら。

音楽はいつものシンセがアラームのように響くのではなく、地味めのアメリカンふうなところがまた。
 
いまのにっぽんなんて、どこを切っても、サングラス不要で、”They Live”の姿しか見えなくて、ほんとうに恐ろしい。

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