12月29日、水曜日の午後、池袋シネ・リーブルで見ました。
1995年にロンドンで初演(演出はRichard Eyre)されたDavid Hareの戯曲 - 1996年のLaurence Olivier Awardを受賞している - の2014年のリバイバル版でStephen Daldryが演出したもの。アンサンブルはBill Nighy, Carey Mulligan(ウェストエンドデビュー), Matthew Beard - ちなみにオリジナル・キャストはMichael Gambon, Lia Williams, Christian Camargo。
David Hareの演劇作品だと、Rupert Everett がOscar Wildeを演じた“The Judas Kiss” (1998)のリバイバル版をロンドンで見ている - 確か2013年頃。これを見た理由はBill NighyとCarey Mulliganだからー。すばらしくよかった。
ロンドンのKensal RiseにあるKyra (Carey Mulligan)の寒々しいフラット、夜に彼女がひとり帰宅して荷物をひろげてふうっとしたところで若いEdward (Matthew Beard)が突然訪ねてきて近況をあれこれ話しだす。最初はふたりの関係がよくわからず、恋人でもExでもなさそうだし、姉と弟のようにも見えるけどそこまで親しげでもないし、そのうちEdwardの父 - Tom (Bill Nighy) がふたりの会話の中心にいることが見えてくる。1年前に妻(Edwardの母)を亡くしたこと、ウィンブルドンに越したこと、最近どうも挙動がおかしくなっていること、等々。Kyraは戸惑いつつもだからといってわたしにどうしろっていうの? という態度を崩さず、そのまま別れる。
Edwardが帰ってしばらくすると、再びドアのブザーが鳴り(嫌味なように何度も)、わかったから! って仕方なく応じるとドアのところにぱりっとしたスーツ姿のTomが現れる。久々の再会のようでぎこちなくハグして、でもEdwardの訪問からある程度予感して近況も把握していたKyraにはやや余裕がある。 これといった用があるわけでもないんだけど、最近どうかね? 生活は大変なようだが - と彼女の部屋を見回すTom。
彼は成功したレストラン事業者で - モデルはTerence Conranらしい - 最近は若いのに経営の指揮は任せるようになったのでやや余裕ができて、でも妻は亡くなってしまって、よく君のことを思い出すのだ、と。KyraはTomの質問に答えるかたちで、イーストロンドンのあまり治安がよくない地域のいろんな困難を抱えた子供たちに教えていて、大変だけどやりがいはあるしなんとかやっている、ということを自分の夕食 - トマトソースのパスタ? を作りながら(本当に作っているように見える)返して、そういうやりとりの中でかつてはバイトとしてTomの店に採用されて、やがてTomの家にメイドのようなかたちで暮らすようになったがTomと関係をもってしまったのでKyraが家を出た過去の経緯と、所謂富裕層で経済的にはなんの苦労もしていないTomと毎日の仕事で社会の貧困に直面しているKyraの現在のギャップが明らかになる。
もう夜も遅いし宿題の添削もしなきゃいけないKyraはだからあなたはなにをしに来たの? 説教? 自慢? 運転手だって外に待たせているんでしょ? ずっとここにいるつもりだったら可哀想だから帰してあげなさいよ、って。でもTomそのものを追い出してシャットダウンするところまでは行かないらしく、そうやってキリキリとせめぎ合う会話の果てに浮かびあがってくるふたりの愛 - と表裏一体になった嫌悪と。それは否応なく見せつけられる階級格差へのそれも含んだぐしゃぐしゃした奴で、認めることなんかできない、けど、目の前にいる/ある(少なくともかつてはあった)のでどうしようもない、けど、後戻りもできないし.. というぐるぐるの中にふたりが投げこまれて、しーんとした冬の夜が過ぎていく。
で、この息詰まるドラマを演じているのが、どっから見てもBill Nighy - 登場しただけで客席から笑いが起こってしまうBill Nighyと、どこまでも優しく柔らかで、でも瞬間湯沸かし器のテンションを抱えたCarey Mulliganなのだからたまんないの。果てなくすれ違ってどこまでも噛み合わないダイアローグを転がしながら、このふたりはゆっくりと朝に向かっていくフラットの一室で、ほんとうにそこに不器用にハグした状態のままで、生きているの。
Tomが帰った後、凍える雪の朝に再び現れる - リッツの朝食セットをもって - Edwardもよくてねえ。あんたみたいなよいこがなんで… とか思ったりもする。 こんなふうにまた新しい一日が始まって、こんなの甘々でだめじゃん、ということは簡単だけど、でもこんな夜から抜けていく朝も確かにあるのだ、って。
こないだのクリスマスのなにがだめだったのかというと、”Love Actually”を十分に見なかったせいではないか、と思った。もちろん、Netflixで見ることはできるのだが、ちがうの、チャンネルを変えたらそこでやっていて、そこからずるずる見てしまうことが重要なの。そうやって年10回くらいは見るようにしないとだめなの。
1.08.2022
[theatre] Skylight (2014) - National Theatre Live
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