1.02.2022

[film] C'mon C'mon (2021)

12月22日、水曜日の昼、A24のScreening Room(配信)で見ました。
チケットを取ったら配信は米国東海岸の8:00pmから4時間の間だけ、だったので会社に自分のMac持っていってその時間だけ抜けて近場のスタバに篭って見た。年末だから許して。すごくよくて泣きそうになって職場に戻りたくなかった。

Mike Millsの”20th Century Women” (2016) 以来となる長編作/監督作品。全編モノクロだがエンドロールで一瞬だけカラーになるところがある。フィルムが始まる前に、Jesse役のWoody Normanくんが愛嬌たっぷりに挨拶してくる。だまされるもんか、って思うが勝てるわけがない。

Johnny (Joaquin Phoenix)はラジオジャーナリストで、スタッフと一緒に全米各地をまわって子供たちにいろんなことをインタビューする仕事をしていて、冒頭ではデトロイトの子供たちに自分のコミュニティや生活のこと、将来のことなどについて話を訊いている。

JohnnyはLAに住む妹のViv (Gaby Hoffmann)と電話で話して、1年前に認知症で亡くなった母のこと - 母の介護はほとんどVivがやっていたらしい - を振り返り、今度は精神を病んで別居して治療に専念する夫Paul (Scoot McNairy)のケアでオークランドに行かなければという Vic の求めと挑発(若干)に応じる形で彼女のひとり息子Jesse (Woody Norman)の面倒をみるべくLAに向かう。これまでも仕事で子供の相手はしてきたのだし、なんといっても身内の甥なのだし。しかしこいつがVivも言っていた通りなかなかやってくれる、のガキなのだった。

目に見えて過激で危険なことをして困らせにくる、言うことを聞かない危ない子、でもなくて、話は聞いてくれるし自分の思っていることもやりたいことやりたくないことも言葉で伝えてくれる。でもなんというか、それに対して具体的にどう応対したらよいのかが互いによくわからずにちゃぶ台が - その絶妙にやばくて途方に暮れるかんじは是非見て味わってほしい。

子を育てる、という局面ではごく当たり前に出てくるようなあれこれなのかも知れないけど、とにかくJohnnyの身ぐるみを剥いで全身を小さな棘で刺すように、それらを時間をかけて日干し生殺しにする様に子供のあどけなさと残酷さ込みで襲いかかってくるJesseのキラーっぷりがすごい。手に負えないかんじになったところで、Johnnyの仕事道具であるテープレコーダーとマイクとヘッドホンをJesseに渡して、それ経由で世界に流れている音を聞かせてみると少しだけ落ち着いてくれたり。

Johnnyは大人の、叔父としてのプライドもあるし棄てて逃げるわけにもいかないのでJesseを自分の次の仕事場であるNYやニューオリンズにも連れていくのだが、どこに行ってもJesseはJesseで… でも少しだけ、その街の建物とか人の群れようとか、いろんな世界の奥行きのようなものを知ってふたりの仲も馴染んでいく。 そんなロードムービーの王道のようなところもあれば、“Kramer vs. Kramer” (1979)のあのふたりのような果てしなさを映すところもある。でもふたりは親子ではないので、最終的におちるところは…

なんで世界はこんななのさ? なんで? どうすんだよ? どうしてくれるんだよ? Jesseが投げてくる何百もの問いはこのあたりに集約されていくようで、これについては哲学者が何千年もかけて考えてきたことでもあるし、おじさんにだってわかんないのだよ、ってJohnnyは返してしまえばいいのにこの人はこの人でまじめに考えこんで対話しようとするので余計にこんがらがって絡みとられていくその様が絶妙におもしろい。

一見、ちっともよいこに見えない子供の問いや振る舞いにきちんと応えようとする大人の姿は前作の”20th Century Women”にもあったし、Mike Millsが常に立ち返ろうとしている地点のようで、それを周囲の大人たち(前作では70年代末の南カリフォルニアの)がどんなふうに抱えて考えて抱きしめていくのか、今作はJoaquin Phoenixがひとりでこれを丸かぶりして引き摺られて弄ばれて。でもその真剣さと表裏の切なさがたまんなくよくて、なんだか泣きそうになる。ひとが育つ、ってこういうことなのか、とか。

こないだのVUのドキュメンタリーでもクローズアップされていたThe Primitives - Lou Reedの“The Ostrich” (1964) がNYに着いたところで流れてきて、映画のタイトルもおそらくこの曲から? いくぜいくぜいこうぜおらおらー、みたいなことしか歌っていない変な曲なのだが、見事にはまっている。あとWireの”Strange”とかも。

ほんとに世の中がよくなりますようにみんなにサンタさんが来ますように、ってクリスマスを前に膝をついて祈りたくなる、そういうやつでした。もういっかい見たい。


2日は、シネマヴェーラ初めでサークを2本みる。どっちもとんでもなかった。
 

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