3.18.2021

[film] Woman on the Beach (2006)

3月10日、水曜日の晩、米国のMUBIで見ました。なんとなくホン・サンスを見ていくシリーズ。

原題は” 해변의 여인”で、邦題は『浜辺の女』。”Woman is the Future of Man” (2004) – “Tale of Cinema” (2005)に続く作品。ルノワールの1946年のとはたぶん関係ない。ホン・サンスにしては長めの127分。

映画監督のジュンネ(Kim Seung-woo)は友人のチャンウク(Kim Tae-woo)に行き詰っているので海の方にでも行って次作の脚本を書きたいんだけど、行かない? と聞いて、チャンウクはいいですけど自分の彼女とも約束しちゃっているので彼女も連れて行っていいか、いいよね? って ムンスク(Go Hyun-jung)を連れてきて一緒に車で(韓国の)西海岸に向かう。行きの車中、チャンウクはムンスクが作曲家でジュンネのファンであることを伝えたり、ムンスクからはチャンウクって別に彼氏でもなんでもないんだけど、あんたの「彼女」の定義ってなに? とかいう話をするとなんか微妙な雰囲気になる。

食事をしようとして入ったがらがらの食堂で店員と小競り合いしたり、ムンスクがかつて暮らしていたドイツでの現地男性との関係のことを話すと3人は更に気まずく互いにそっぽを向くようになって、でもそういうのを経て夜になるとジュンネとムンスクは浜辺にふたりでいてキスをして、そのまま宿に移動してセックスをして朝になると、そのまま車で戻る。帰りの車の中で3人がどんなかんじだったか知りたい。

その後ひとりで脚本を書くために再び同じ浜辺に戻ってきたジュンネはそこら歩いていた女性ふたりに声をかけて - ひとりでいられないのか - 脚本書きの参考にしたいから、とインタビューを申し込んで、夕刻になるとふたりのうちのひとりソンヒ(Song Seon-mi)が寄ってきたのでインタビューの続きのような会話をしつつ一緒に食事をして、その流れでそのまま寝ちゃって、そうしたら突然ぐでんぐでんに酔っ払った状態のムンスクが現れ、そこにいるのはわかってるんだ出てこいおらーって外で大騒ぎして、翌朝部屋のドアの前で潰れているムンスクを跨いで外に出る。でもその後のムンスクの追求(あのとき別の女と寝てただろ)にジュンネの返事はどんどん嘘の上塗りでおかしくなって…

これまでのホン・サンス作品にあった犬も喰わない、過去の記憶に拘泥しつつひたすら女性との関わり(呑み食いとセックス)を求めてどーでもいい痴話喧嘩にずるずる身を任せていくスタイルに加えて、これ以降の彼の作品に頻繁に出てくることになる浜辺とか、(あてのない)彷徨いとか、なにを求めているのか(男性の側からは)わからない女性とかが登場してきている気がする。

あと、まっさらな状態の出会いなんてなくて、浜辺で出会ったふたりは数日前に浜辺にいたジュンネのことを覚えているし、ジュンネはソンヒに数日前に一緒にいたムンスクの影を重ねようとする(似てるかも、なんて言いつつ)。酒杯を重ねるのもセックスするのもそういうやらしいオーバーライド合戦の延長としてあり、そういうので満たされるものがあるらしい男性に対して、女性はそんなもん夜の浜辺の寄せてくる波に流してしまえ、って(いう程単純ではないか)。

ムンスクの設定って、後の“On the Beach at Night Alone” (2017) - 『ひとり、夜の浜辺で…』でKim Min-heeが改めてなぞっている気がする。かつてドイツで暮らしていて、韓国に戻ってきて、の辺り。

あと、これもいつもの、一瞬出てきて消えてなんだったのか、の例えば、捨て犬のドーリのこととか、バイクに乗って乱暴しにくる男とか、本筋に関係ないけどあまりに本筋がぺったんこなのでその端にシミのようにひっついてくるやつ。

スクリューボールではない - 巻き込まれたり踏み外したりする段差なんてない - と思っているところでねちねちネジ巻き式のにじり寄りを実行しようとして、でも結果的になにも起こらず笑いも起こらなくて、まあこんなもんさ、って埃を払って向こうに歩いていく男たち、そういう劇をおもしろいと思えるかどうか。 まだなんかおもしろいかも、と思って見ているの。 こないだのベルリンで銀熊とったのもおもしろそうだねえ。


気がついたら在宅勤務を始めて1年経っていた。 これについては、効果だの生産性だのを巡って労使それぞれに賛否いろいろあることはわかるけど、でも少なくとも、こういう働き方がオプションとしてあって(通用して)、それを決めるのは会社ではなくて社員の側である - それは会社を選ぶのと同じ類の自由度で認められるべき、くらいに思うようになった。 なにが言いたいかというと、もう昔みたいに通勤電車でぎうぎう、っていう生活には戻れないだろう、って。

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