3.28.2021

[film] 阮玲玉 (1991)

3月21日、日曜日の昼、Metrographのvirtual screeningで見ました。
英語題は、”Center Stage”、邦題は『ロアン・リンユィ/阮玲玉』。4Kリストアされたバージョン。

中国のサイレント時代の女優で、24歳で自ら命を絶ってしまった阮玲玉 - Ruan Lingyu (1910 - 1935)の伝記映画。 といっても彼女の作品の殆どは失われていて断片やスチールでしかその姿をうかがうことはできない。

香港の監督、Stanley Kwanは、失われた映画のこうだったはず、というパートをMaggie Cheung = Ruan Lingyu、Tony LeungやCarina Lauらと共に再現しつつ、そこに当時存命していた彼女のことや彼女の映画のことを知る映画関係者へのインタビューと、演技をした俳優たちやスタッフを交えた座談会を加えて、彼女の遺したものを多面的に追っていく。

ここでとりあげられている彼女の作品は以下なのだが、これらもほぼ残っていない。

故都春夢 (1930) - “Dream if the Ancient Capital”
野草門 花 (1930) - “Wild Flowers”
桃花泣血記 (1931) - “Weeping Peach Blossoms”
三個摩登女性 (1933) - “Three Modern Women”
城市之夜 (1933) - “Night in the City”
小玩意 (1933) - “Little Toys”
香雪海 (1934) - “The Sea of Fragrant Snow”
神女 (1934) - “The Goddess”
新女性 (1935) - “New Women”

かろうじて残っているカケラに当時の社会情勢 - 日本の侵攻が始まっていた -と彼女を取り巻く映画関係者や男優との恋愛も併せて、彼女はこんなふうに演技した and/or させられた、をMaggie Cheungが演じている。 といっても彼女とRuan Lingyuの演技のスタイルも演出の仕方も時代も技術も含めて違うのは当然なので、そういうところはMaggie Cheung自身が率直に語っていておもしろい。

そうやって、Ruan Lingyuにとって、当時の映画界で女優として生きるというのはどういうことだったのか、を現代の映画のキャストとスタッフが明らかにしていく。なぜそんなことをするのかと言うとやはり残された彼女のスチールやフィルムで見ることができる彼女の姿や眼差しが - 中国のGreta Garboと呼ばれた、という以上にいまの我々に強く訴えてくるものがあるからだ、としか言いようがない。

サイレントなので言葉はなくて、彼女の表情や動きですべてを決めて表現する必要があって、女優はそれをどう演技して表に出すかを考えるし、演出する側にもこう動いてほしい - こう動かないとだめだ、という思いがあるし、そこには葛藤や試行錯誤もあって、再現パートはそういう箇所 - ダメ出し - も含めて全部見せていく。 そういう葛藤や衝突が本当にあったのか、疑わしいところもあるけど、腕や指先のちょっとした動き、表情や目の硬さ、などがそれを見つめる我々の解釈に直結してくるので納得できないことはないし、サイレントの時代にはこうだっただろう、というのはとてもよくわかる。

こうして、終盤はふたりの男性に挟まれて行き場を失い感情を殺され、自ら薬を飲んで死んでしまった最後の晩と棺桶に横たわる彼女を関係者が囲むところのなぜ? に向かっていく。 スクリーンの上で動くことが全てのサイレントの女優がその動きを止めてしまう、それはどういうことだったのか? (これは、彼女はなぜそういう演技をしたのか? という ↑ の問いと対になっている)

約30本の映画に出て、それぞれの映画の中の愛や恋や生のセンターステージにいて、その約100年前の瞳や微笑みがいまだに我々を動かす、そんな彼女が24歳でその動きの一切を止めてしまう、って。これは勿論、彼女の死に限ったことではなくて、死とはそういうものであることはわかっていてもなんて辛いことだろう、って。

そしてあとは、失われた彼女の作品がひとつでも多く発見されることと、遺された作品をひとつでも多く見れますように、っていうことだねえ。そのうちどこかで見ることができますようにー。


さっきまで午前1時と思っていたら2時になっていて、ああ今日から夏時間になるのだった、と。夏時間になるのはうれしいのだが、この切り替わり直後の数時間だけ、いっつも少しもやもやする。 冬時間になるときはこの逆で1時間余分にくるのだが、こっちは冬に向かっていく辛さとで帳消しになるので、ふーん、なの。

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