3.27.2021

[film] In the Soup (1992)

3月20日、土曜日の昼、アメリカのMUBIで見ました。
Alexandre Rockwell監督の特集(3本)が始まろうとしていて、その最初の1本。4Kリストア版。当時の(今となってはすごく豪華な)インディー・オールスターキャストで、92年のSundanceでは”Reservoir Dogs”を抑えてGrand Jury Prizeを受賞している。へえ。

NYのぼろアパートに暮らす主人公のAdolpho Rolo (Steve Buscemi)は映画作家志望で、冒頭に「私が生まれた日に父が亡くなった。私はドストエフスキーとニーチェに育てられた」 - 自分は映画作家になる運命なのだって、500ページのスクリプト - タイトルは”Unconditional Surrender” - の束を抱えて、明日に向かって走り回っている。でも現実は家賃すら払えなくて取り立て屋(二人組で歌う奴ら)に脅されている。アパートの隣にはAngelica (Jennifer Beals)がいて、憧れているのだが彼女からは完全に無視されて、でも隣の部屋からは泣き叫ぶ声が絶えない。

$100貰えるバイトがあるというので、Jim Jarmusch(と妻とパグ)の事務所に行くと“The Naked Truth“ていうTV撮りでカメラの前で裸になって喋らされて$40しか貰えないし、どうしようもなく困ったので、”Unconditional Surrender”を売りますって広告を出したらJoe (Seymour Cassel)ていうやばそうな初老のおやじが声をかけてきて、彼のところに行くと、一緒に映画を作ろうって$1,000くれて、さらに予算はいくらだ? っていうので$250,000くらい? とか言うとわかった、って深夜2時にレストランに呼び出されて、どうみても怪しい殺し屋Skippy (Will Patton)とかも出てきて、映画をやろうぜ、って言う割にはこれまで撮ったフィルムを見せても読み聞かせてもなにひとつ前に進まずにJoeの周辺の変なやくざ連中が次々とやってくる。

夜中に突然Adolphoのベッドに入ってきて後ろから耳を噛んできたり(どんなかんじだったかしら? ってちょっと疼く)、自分は「アート」をやって何かを残したいんだ、ってがはがは笑うJoeの存在感がすごくて、彼にくっついて行動しているうちに映画からどんどん離れてお金は入ってくるもののおかしな連中の理不尽な動きに巻きこまれて取りこまれて自分でもなにをやっているのかわからなくなっていく、っていうカフカみたいな。

後半に入るとAngelicaに対する妄想と彼女につきまとうよくわかんない連中 - 髪の毛のあるStanley Tucciとかまだ子供みたいなSam Rockwellとかが絡んできて混沌が加速して、JoeもAngelicaもみんなで一緒にパーティに行こう! って盛装して出かけてもなにやら不吉な予感しかしなくて、やがて。 ここで見せてくれるSeymour Casselのダンスがとにかくすばらしいので、それだけでいいかー、にはなる。

巻きこまれ型のコメディとしては動きにとぼしいというか、変な人々がわらわら寄ってきてされるがままが過ぎるし、ほんとに映画やりたいなら最初にお金貰ったところで持ち逃げしてでもやればいいのに、とか思うのだが、Adolphoの性格のせいかJoe(悪魔)とAngelica(天使)の半径5mくらいのところに縛られて、身動きが取れない。おもしろいからいいけど、で済ませてしまってよいのか(こんなにすごい人たちを使って)、と今なら思うけど、当時はこんなもんでよかったのかな。

90年代の初めはまだバブルの残り香もあって、こういう話はわりとそこらにごろごろしていたと思うし監督自身の実話らしいし、日本人も出資してるし、今だと信じられな - くもないか。日本の政府はいまだに税金じゃぶじゃぶゴミみたいなコンテンツにいっぱいつぎ込んでるし...   でも今よかまだいろんな夢があった時代のファンタジー、ということで。

ギャングでもホラーでもサスペンスでも、惑っておろおろしてパニックして引き裂かれていく - をノンストップで繰り広げるとき最高に輝くSteve Buscemiという役者を主演の、正面から目一杯堪能できるので彼のファンにはたまんないと思う。

“Desperately Seeking Susan” (1985)ではいかれた殺し屋だったし、ここでもそうだし、のWill Pattonさんは、この前日にみた”Minari”ではやつれて十字架を背負うところまでいってて、いろいろあったんだろうな、ってしんみりしたり。

撮影当時は予算がなかったのでカラーで撮られて、そのカラーバージョンが英国のレンタルビデオ化の際には出回ったそうで、そっちも見てみたい。どんなだったのかしら?

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。