3.26.2021

[film] Minari (2020)

3月19日深夜から20日の土曜日にかけて、Film Forumから飛ばされたA24のサイトで見ました。
アメリカが夏時間になったので0:00からの開始(のみ)。英国でのストリーミングはもう暫くかかりそうだったので(4月2日かららしい)。

2020年のSandanceでU.S. Dramatic Grand Jury PrizeとU.S. Dramatic Audience Awardを受賞している。アメリカ人監督Lee Isaac Chungの子供時代を描いたものだという。 で、上映の前にDavid役の男の子が登場してかわいらしく「見てね!」とかいう。ずるいわ。

80年代のカリフォルニアに韓国からやってきたJacob (Steven Yeun)とMonica (Yeri Han)の夫婦は鶏のひよこの雌雄判別の仕事をした後で、アーカンソーに50エーカーの土地を手に入れ、韓国の野菜を育てて売るために娘Anne (Noel Kate Cho) と6歳のDavid (Alan S. Kim)の4人でやってくる。家はトレーラーハウスのようなぼろぼろで、その時点からMonicaは本当にここでやっていくつもり? という顔になっている。

心臓に病を抱えて夜尿症のDavidのことをどうするのか、もっと韓国人のコミュニティがある都市近郊に移った方がよいのでは、というMonicaに対して、ここに自分の農場を持つことは夢だったし自分はそれを成し遂げることができると固く信じているJacobは、地元の変な隣人 - 朝鮮戦争の退役軍人 - Paul (Will Patton) の力を借りて黙々と耕していって手を休めようとしない。

Davidを中心とした子供たちの世界 - 教会に行って差別的なことを言われても打ち解けたり – があり、Monicaは教会を通して社会との接点を見いだそうとし、韓国から渡ってきたMonicaの母Soonja (Yuh-Jung Youn)が子供たちとの間に巻き起こすあれこれ(やや困ったおばあちゃん)があり、水の枯渇があり、際限なくいろんなことが起こるたびにはらはらするのだが、フィルムはそういった個々の問題が大きなうねりを作って大惨事へ、というよりもゆったりとした四季のペースを維持しながら彼らの営みを見守っているかんじ – 見守っているのは誰か?

やがてなんとか収穫できた野菜をオクラホマシティに持っていって買い手がついたところで、納屋の火事が..

韓国からの移民が苦労して土地を開拓して馴染もうとするお話し、というよりはJacobの土と水をめぐる戦いにしても、Monicaや子供達の社会化や居心地をめぐるいざこざにしても、家族の病気 – Davidの病気の他におばあちゃんの手が麻痺したり – の困難にしても、韓国からの移民、に特化した語り口になっていない気がする。緩やかに自然と人工の間を渡りあって楔を打ちこんで克服する - というより緩やかな着地を試みる、そんなかつてあったようなアメリカの物語になっている。

もちろん、子供たちのためにも自宅に韓国文化を強引に持ち込もうとする - 食べもの、TVとか - 英語のできないおばあちゃんの労苦、というのもあるのだが、そこは子供たちにもあっさり無視されて潰されて、でも最後に彼女が水辺にてきとーに植えておいたMinari - セリに柔らかな光が。

そうじゃない物語もあって、十字架を背負って汗だくになって道を歩いていくPaulは間違いなく別の光を求める子羊なのだが、でもそういうのもあるよね、程度でJacobは彼の十字架の横をあっさり車で通り抜けていく。

翌日にMUBIでJean Renoirの”The Southerner” (1945) - 『南部の人』も再見した。
これもおばあちゃんを含めて一家が力を合わせて自然や病や隣人と闘っていくお話しだが、ここではしっかりひとつになった家族が土地に向かっていくのに対して、”Minari”の家族は必ずしもそうじゃなくて、Jacobがすべての決定権を持っているようで彼は孤立して話をしないし聞いてもらえないし、おばあちゃんとDavidの対立は痛ましいし - それ故に火事のあと、野道でのふたりの追いかけっこには胸が張り裂けそうになる。

韓国の家父長制的な家族のありようや韓国におけるキリスト教の受容を踏まえて見てもおもしろいのかもしれないが、それがなくても理解できるお話に見えてしまうのは、こっちの問題なのかもしれない。 数年後には、この映画では割とおとなしかった姉のAnneが『はちどり』になるのだと思う。

この映画を見て、マンハッタンの2nd Ave.の62nd辺りにあったKorean Deliを思い出した。最近は減っているのかも知れないけど、昔は野菜に果物、調味料に雑貨に、真ん中に惣菜のビュッフェコーナーがあるお店がピザスタンドと同じくらいそこらにあって、店によってよいのわるいのばらばらなのだが、62ndのお店の野菜 - 葉物のクオリティはすごかったの。でもイタリアンパセリとシャンツァイを間違えて買ったことがあったり。ここにはMinariも置いてあったのだろうか。

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