12月29日の午後、MUBIで見ました。
シカゴの映画作家Jon Jostによる、あんまりインディー臭のないアメリカン・インディー作品。
Anna (Emmanuelle Chaulet)と Nicole (Katherine Bean)とFelicity (Grace Phillips)の3人はNYのアパートをシェアしていて、Annaはフランスから来ている女優で、Nicoleはギャラリーに勤めていて(Gracie Mansionがギャラリーオーナー役で出てくる)、Felicityは声楽のトレーニング(ぷるるるるるるる)をしたりスイカを食べ散らかしたりしている。彼女たちがいるアパートはモダンで快適そうで、本棚に並んでいる本は、経済から小説から画集まで割と雑多で、彼女たちの本ではなさそう。
株のディーラーをやっているらしいMark (Stephen Lack)はオフィスで複数の通話をスイッチして顧客とテンション高くべらべら喋りながら時折フロアに向かって怒鳴り散らして、を終日やってお金を稼いでいる。
もうひとつ、Nicoleのいるギャラリーには作品を預けているアーティスト(ちゃらい兄ちゃんふう)がお金をせびりにくるところも描かれる。 これがまだバブルの香りがほんのり漂っていた80年代末NYの光景。
ある日、Metropolitan Museum of Art(MET)のオランダ絵画コーナーにあるフェルメールの絵 - 特に『少女』 - の前でそれをじーっと見つめるAnnaの後ろ頭を見たMarkが彼女に声をかける。 君はこの絵に出てくる女性のようだ、とかなんとか。彼に見えたのは後ろ頭で、少なくとも正面からは見ていないはずなのだが、普段から見えないものを見ようとしているトレーダーなのでなにかが見えたのかも知れない。会って食事でもしないか、と誘ってきたMarkに、Annaはなんか怖いものをかんじたのかNicoleに一緒についてきて貰って、初めは英語がわからないフランス人のふりをして、話してみればMarkはそんなに悪い人でもなさそうだし沢山お金を持っていそうなので会って、家賃を立て替えて貰ったりする。Markは$3000をあっさり出してくれて。
トレーダーだけど割とアートが好きで、NYにはMETに5つとFrick Collectionに3つ(映画の中でこの数だったっけ?)のフェルメールがあるんだよ、と『リッツくらい大きなダイアモンド』のようなかんじで語るのだが、Annaにはふーん、くらいで、なんだか頭痛で調子がよくなかったMarkはMetのフェルメールの絵の前で耳から血を流して倒れてしまうの。
Eric Rohmerのような仕事と空き時間と都市の隙間で男女が出会ってあとちょっとでどこかに転がりそうになったところで、不吉な出血と昏倒によってそれがぷつりと途切れてしまう。それだけなの。
Rohmerの“L'ami de mon amie“ (1987) - 『友だちの恋人』で主役のBlancheを演じたEmmanuelle ChauletさんがBlancheよりはややしたたかで強い女性を演じている。部屋はレントだけどあの映画に出てきた彼女のアパートよりは暮らしやすそうな。
ストーリーとして謎なところはほぼなくて、登場人物はみんなふわふわ絵とかマネーの世界を漂っていて、そういうなかで突然空からタライが落ちてきて「あらら..」っていうようなの話なのだが、ありそうなありそうでないような、という線をとてもシャープに引いてて気持ちよい。肥溜めのようになってしまったここ数日間のアメリカから見るとまったく別の世界に見える。
METのフェルメールだと『眠る女』のテーブルに掛かっている布の模様のかんじがとにかく好きで、あの前だったら1時間でも立っていられるけど、そうやって声をかけられたことはないねえ。 ふつう、かけないよね。
そういえばFrick Collectionの方だと、こないだのTVシリーズ”The Undoing” (2020)でNicoleのパパのDonald Sutherlandが、あそこのターナー(だよね?)の前に座っていつも考え事をしていた。金持ちはいいよな。
あと、World Trade Centerの屋上も出てきて、あれ? って一瞬混乱するのだが、この頃はまだ存命中だったのか。
第二弾は男性同士の出会いを描いた”All the Rembrandts in Paris”、第三弾は”All the Jakuchūs in Tokyo”になってほしい。
とつぜん七草粥が食べたくなったのだが、草はどこに生えているのか?
1.08.2021
[film] All the Vermeers in New York (1990)
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