1月24日、日曜日の晩にAmazon Primeで見ました。昨年割と話題になったドキュメンタリー。
LFFでも上映されて、昨年のサンダンスではU.S. Documentary Directing Awardを受賞している。
アフリカン・アメリカンの女性 Sibil Fox Richardson = Fox Richが主人公で、彼女が20年以上に渡って撮影してきたモノクロのホームビデオの映像を編集したものにこの映画スタッフが撮影したやはりモノクロの映像が繋がったり連なったり。
1997年、Fox Richと夫のRobertの夫婦は、ふたりで経営していたヒップホップファッションのお店が苦しくなったことから強盗を働いて逮捕された。 妻は司法取引で12年の刑を受けて3年半で - 1999年に仮釈放され、夫は司法取引を拒否したので仮釈放なしの60年の刑を言い渡されて服役した。事件当時、ふたりの間には4人の子供があって、彼女は双子を妊娠していた。
Richardが入れられた刑務所はルイジアナ州の原野 - 元は奴隷が働くプランテーションだった - のなかに要塞のように浮かんでみえる難攻不落のやつで、何度か空撮で映し出される。
映画はRichardの仮釈放を求めて活動家となり講演やイベントに出たり、弁護士や機関に掛け合ったり果てのない交渉の進捗を確認したり、もちろん母親としても慌ただしく奔走するFox Richの姿を追っていく。その間に彼女が撮り続けていた家族の映像や夫に向けたビデオメッセージが挟みこまれる。
これを見たら誰もが彼女の力強くチャーミングな言葉や表情の数々と夫への愛に打たれて彼女を応援したくなるに違いないし、そうやって見てもよいと思うのだが、彼女が見て聞いてほしいと繰り返し言っているのは、なんで同じ罪を犯して彼は懲役60年なのかおかしいだろ、ということで、だがしかし、この映画の中心のテーマはそんなことが起こってしまうアメリカの狂った司法制度を問題視することでも夫の被った罪の重い軽いを検証することでも、その判決に間違いなく挟みこまれている人種差別を告発することでもない。どこまでもポジティヴで力強いFox Richの「待つわ」への讃歌でもない。
ふたりが出会って結婚して子供が生まれて事件が起こるまでの時間、事件の後に妻が出所してこの映画が出るまでの約20年間という時間、それはFox Richにとって、子供たち - なかでも父のことを知らずに育つ双子たちにとって、刑務所にいるRichardにとって、それぞれ違う流れ方をしたり強いたり強いられたりしてきた時間で、それらが彼女のホームビデオにはカプセルになって詰め込まれている。 それを見る我々自身にとってもそれは同じ20年なのか別の20年なのか、そんなふうにある地点に向かって流れていく時間について考えることが、このシンプルなタイトルのテーマなのだと思う。 20年、やっぱり長いし、でもあっという間だった - あっという間にものすごく歳をとった(憎)、などなど。
いまだに国民の殆どが死刑制度を無反省に支持している野蛮人の国にっぽんでは、いやでも、そもそも犯罪を犯したのが悪いんだろって自慢の自業自得セオリーを掲げてきょとん、となってしまうかも知れないけど、ほんとうに生活に困ったら自分はどうなるのか、そして捕まって60年とか言われたらどう思うか、想像してみることよ。なんで自分はそんなに高いところにいるって思えるんだろうね。
ラスト、ついにようやくRichardと会える日がやってくる。そこで、画面の上で何が起こるのか見てほしい。改めてこのタイトルがしみてくる。無駄になった時間なんてなかった。それがどんなだったにしても、「時間」はそこにあってあなたはそこにいたんだね、って。だからこうしてキスできるんだよ、って。
ホームビデオのやや粗めのモノクロ、撮影陣によるきめ細かなモノクロ、スローモーションや逆回転をうまく織り込んだ編集、ここに被さってくるEmahoy Tsegué-Maryam Guèbrou - 1923年生まれのエチオピアの尼僧さん - のぱりぱりした不思議なリズム感のピアノもすばらしい。 これ、映像がカラーで、音楽がヒップホップだったらどんなふうに見えただろうか?
あとはFox Rich彼女自身がやっぱりかっこいいの。自分で撮っていた映像のセンスも素敵で。
少しだけ意地悪いことを言うと、これ、ふたりの立場が逆で妻の方が懲役60年だったら夫はあそこまでがんばっただろうか? こういう映画になっただろうか? って。
昨年の暮れから今まで、ずうっとつまんないのであちこちいろんなのをポチしまくっているのだが(こわいよう)、今日の昼にGoat Girlの新譜が(なぜかドイツから)届いた。物理的に届いたレコードとしては今年最初の1枚。もちろんピンク盤で、サイン(というよりイラストだわ)入り。
少しシンセとか入っているけど、ちっともメジャー感なんてなくて、ごとごとがりがりしていてよかった。
1.31.2021
[film] Time (2020)
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