21日、木曜日の晩、Film ForumのVirtualで見ました。
Philippe Garrelの新作。 英語題は”The Salt of Tears”。撮影はRenato Berta、脚本はJean-Claude CarrièreとArlette LangmannとGarrelの共同。昨年のNYFFでかかっていて見たかったやつ。
家具職人を目指しているLuc (Logann Antuofermo)がパリのどこかの駅に降りたって、バス停でバスを待っていたDjemila (Oulaya Amamra)と出会って、その晩に待ち合せして仲良くなって何度かデートをしていくのだが、LucのところでセックスしようとしてもDjemilaはそれはダメって拒んで、その辺から溝ができてしまい、工芸学校での短期研修が終わるとLucは田舎に戻ることになって、別れを惜しみながらもやっぱりお別れする。
田舎に戻ったLucは、やはり職人をしているパパ(André Wilms)のところで修行していくうち、高校の同級生で恋人だったGeneviève (Louise Chevillotte)と再会して再びつきあうようになり、仕事場でパパも含めて3人で会ったりするようになる。そのうちGenevièveは結婚まで考えるようになるのだが、Djemilaからも手紙が来るしLucはそこまで真剣ではなくて、そのうち工芸学校に合格したLucはパリに出発する準備を始めて、Genevièveは妊娠しているの、とまで告げるのだがそれが却って逆効果で..
パリで学生になったLucは友達が街で引っかけた女性の横にいたBetsy (Souheila Yacoub)と仲良くなって一緒に暮らし始めて、彼女は彼にとって魅力たっぷりでずっとべたべたしていたいのだが、彼女の昔からの知り合いの若者Pacoが行くところがなくてかわいそうだから部屋に置いてやってくれないか、と頼むので部屋の隅で寝泊まりさせるのだがだんだんこいつが目障りになってきて..
他方で田舎に残されたパパとGenevièveはLucは遠くに行っちゃったね、とか話して、Lucの子を堕したGenevièveは泣いて、病気の治療でパリに出てきたパパとLucが会ってもどこかぎこちない状態になって、やがて..
大枠では3人の女性とLucのそれぞれの出会いと別れを描いた3章(章立てされているわけではないが)から成っていて、でもそれを通してLucが何かを学んだり成長したり、というお話しではなくて、別れては出会ってを繰り返しつつ本当の愛なんてどこにもないし、そもそもそれって何なの?って立ち尽くしてばかりで、それを横で見ていた文人のパパもいなくなって。
ほぼ2年毎に撮られた愛の3部作 - “La Jalousie“ (2013) 『ジェラシー』~ ”L'Ombre des femmes“ (2015)『パリ、恋人たちの影』~”L'Amant d'un jour“ (2017) 『つかのまの愛人』の後にGarrelは何を撮るのか? これは新たな3部作の始まりとなるのか? 勿論そんなのわかるわけないのだが、結婚して子供がいる男の傍で恋をし、苦悩し、情動に身を任せていく女性たちの姿を中心に置いた3部作との対比でいうと、出てくる女性は変わらず複数だが、本作はどちらかというと男性の方にスポットがあたっているような。Lucは多少悩んだりするものの、基本は恋(というより欲望)に身を任せて自分の好きなようにやっていて、結果的に女性を捨てたりして、自分の矛盾や冷酷さに後ろめたさを覚えつつもそこに没入して身を焦がしたり破滅させるようなところまではいかない。恋愛や別離の、その過程を描くドラマとしてはやはりどこか弱くて、この作品で一番印象に残るのはLucを彼から少し離れて見守っているパパの方で、Genevièveとの間にできた子供を捨てた(ここで旧3部作の方には行かないことがわかる)Lucに何かを伝えようとしつつもどうすることもできずに空を見上げて星を数えている。とうに乾いた涙の、あとに微かに残った塩の味。
恋愛というのが普遍もくそもない、人の一筋縄ではない奇怪さとか不浄さとか儚さとかを映しだすものであることを散々示した上で、それでも(負けずにでも懲りずにでもなく)ただ相手のことを想ってみっともない何かを晒してしまう男女を描いてきたGarrelではあるが、その距離感が少しだけ変わったような気がした。そのかんじをどう表現したらよいのか、まだ考えている - わかりやすさ、とはまた違うし。
でも、LucがBetsyと出会った時のクラブでのおなじみのダンスシーンはものすごく素敵で、ここだけでぜんぶ大好き! になってしまう。流れる曲は、ここGarrelの数作の音楽を担当しているJean-Louis AubertさんがいたTéléphoneの”Fleur de ma ville”(1980)。振り付けは“Regular Lovers” (2005)の”This Time Tomorrow”の痺れる群舞シーンも担当したCaroline Marcadéさん。あの映画のあそこで震えがきたひとは今回もぜったい見にいくべし。踊りのとこだけ見て帰ったっていいの - いやよくないけど。
英国のCovid-19の死者数が10万人を超えた。まだ米国よりは少ないのだし、とか、数は結果でしかない、という声もあるのだろうが、やはりこの数は尋常ではないし、これを減らすために国はなにをしてきたのか、というとやはりぜんぜんだめだった、と言うしかないのではないか。 ご冥福をお祈りします。
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