1月10日、日曜日の晩、MUBIで見ました。
これも”First Films First”のシリーズから、今をときめくDenis Villeneuveの長編デビュー作。言葉はフランス語のカナダ映画で、英語題は “August 32nd on Earth”。98年のカンヌの「ある視点」部門に出品されている。
夜のハイウェィを車に乗ったSimone (Pascale Bussières)が空港に向かって疾走していて、だんだん瞼が重くなって、あっと思ったら暗転して字幕には“August 32nd”と出る。朝になって目が覚めた彼女はひっくり返っている車から這いだして元の道路まで歩くとなんとか状況をのみ込んで、そこに走ってきた車に乗せてもらう。車を運転している男は今日は32日の金曜日だ、と言ってSimoneは鼻血を垂らして、診察して貰った病院では頭を打っているので記憶とかになんか混乱があるかも、とか言われる。
病院から自宅に向かって歩いていく途中で道端に座って陽の光を浴びて草とか転がっている動物の死骸とか虫とかをじっと見つめたり(たぶんここでなにかが彼女に起こる)。
日付は8月33日になって、Simoneは途中で泊まったモーテルから再び歩きだし、その途中で元恋人のPhilippe (Alexis Martin) を呼びだして - 途中に素敵な猫がでてくる - Simoneは彼とかつて交わしたアイデアの子供を作ろう、をやらないか、という。 いまは別の恋人と暮らしているPhilippeはよい人のようで困惑しつつもいいよって言って、これもかつてふたりで考えた件 - 作るならどこかの砂漠でやろう、って24時間で戻ってこれる砂漠、としてソルトレークシティに飛ぶことにする。
その翌日の34日にユタに着いてレンタカーをしようと思ったら事故のときに免許証を失くしていたことに気付いて、そっちは諦めてタクシーの運転手と交渉して砂漠 - Dune - まで行ってもらう。
ぺったんこ砂漠のまんなかについて、さてやろうか、ってなってもなんか気まずいので、運転手には1時間後に戻ってきてくれないか、って頼んで、運転手が去ってからさて、って向き合ってもなんか違うかも、になったのでやっぱり戻ることにする。で、戻ってきた運転手がべらぼうな運賃をふっかけてきたので話が違うって怒ったら砂漠に置き去りにされて、ふたりはえんえん歩くことになる。
Simoneが座りしょんをしたらそこで黒く干からびたヒトの死体を見つけたり、ようやく幹線道路に辿り着いてヒッチハイクでなんとか空港まで戻ることができて、飛行機まで日本のカプセルホテルのようなところに泊まって売店で買ってきたお酒をのんで、気がついたら日付は35日でSimoneは自分の家に戻っていて、Philippeを呼びだしたら彼は途中で暴漢たちに襲われて昏睡状態に..
彼らの行動と展開はさくさくわかりやすくストレートで、都市も砂漠もぺったんこでわかりやすいモダンなデザインのもとで、そこで情動と刹那に身を任せて突然走り出す - 音楽がカットインしてくるさまはヌーヴェルバーグのように見えなくもないし、Philippeの部屋には“Jean Seberg : American Actress” (1995)のポスターが貼ってあるし - そんなみんな納得できる普遍性をもった青春映画かも。
突然すぐそこにある死を見てしまった(or 冒頭の事故でいったん死んでしまっているのかもしれない)女性がその薄皮いちまい隔てた向こうにある生を求めて元カレと旅に出る8月の夏休みの追加日、みたいな数日間。その彼が向こう側に行ってしまいそうになった時、彼女はようやく生の時間を手元に取り戻す、というー。
Denis Villeneuveの作品、そんなに見ているわけではないのだが、”Arrival” (2016)でも“Blade Runner 2049” (2017)でも、母になること、ってテーマとしてあるのかも。
音楽はRobert Charleboisの”Tout Écartillé” -「おの! おのじゃめ!」って空耳アワーで使えそうな or もう使われてる? - が何度か流れて強烈で、”Stranger Than Paradise” (1984)での Screamin' Jay Hawkinsに相当するやつだと思った。
アメリカは明日でようやく4年間続いた悪夢から脱けだすことができる。あれを(最後にあんなことがあったとはいえ)自分たちの手で追っ払った、っていうのはうらやましいったらない。他方で、にっぽんは今の地獄をあと何年間続けていれば気がすむの? そんなにあんな奴らがいいの? みんな生殺しされていてそれでいいの? いいんならすきにすれば。
1.20.2021
[film] Un 32 août sur terre (1998)
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