8.27.2020

[film] Technoboss (2019)

 20日、木曜日の晩、MUBIで見ました。なんとなく。技術系のドキュメンタリーかと思ったら(うそ)、変てこミュージカルだった。ブラジル映画だと思っていたらポルトガル映画だった。おそるべし。

Luís (Miguel Lobo Antunes)は引退を考え始めた初老のエンジニアで、妻とは別れて猫のナポレオンとふたりで暮らしている。彼の会社はオフィスの出入り口のアクセス管理システムの設営とか修理とかをやっていて、社員は5人くらい。ものすごく重要な使命を担う特殊な製品を扱っているわけでも、その仕事の遂行に彼の知見や技量がなくてはならない、というわけでも、彼もその仕事に特別な誇りや特異な情熱を傾けているわけでもなく、生活に困ってどうしてもその仕事にしがみつきたい事情があるわけでもなく、いつ会社がなくなってもそのシステムがなくなっても彼がいなくなっても誰も、そんなに気にしないし困らない。そういう地点から人はどんな物語を作ることができるのだろうか。

会社に行って指示を受けて出先を訪ねて据え付けたり修理したり動作確認したり。うまくいくのもあるけど、うまくいかない方が多い。不平不満はいくらでも受けるしそれも仕事のうちだし、失敗しても怒られても人が死ぬわけじゃない(たぶん)。そんなだから仕事行くのも帰るのもどんよりだし、仕事してても「くそったれー」みたいなのばかりで、「やりがい」なんてどこの星の話か、ってそういう状態で人はなにをするかというとー。

歌うのよね。ただその歌もミュージカルみたいにエモを込めて世界に解き放つのではなく、自分には歌しかないんだって熱唱するのでもなく、車に乗っているときとかに鼻歌よりもやや大きめに、でもそんなに巧くはない。たぶんトラック野郎とかのおじさんとかの方がぜんぜんうまいと思う。 そうやってある時はフォークのように、歌謡曲のように、ブルーズのように、ハードロックのように、歌となって放射されるLuísの声と世界。シチュエーションはいろいろ、車でひとり(車の外はハリボテの景色)だったり、相手がいることもあるし、大勢に囲まれていることもある。ただ歌を歌っている間はミュージカル映画のように世界まるごとその動きが止まって地上から、枕から数センチ浮かびあがっていて、彼の目はこっちを向いてやや真剣になにかを語ろうとしているような。

いちおう、Luísは出先のホテルの受付にいた女性と運命の出会いをしたと思って、彼女との間に歌の魔法が..  みたいな話でもないの。幸せとか将来とか割とどうでもいい、やや温度低めの音楽と共に平熱で生きる。こんな世界はあるし、みんな知っているはず、って。

IMDbになんの情報もない主演のおじさんが何者なのか、すっとぼけた音楽はどこの誰がどんなふうに作ったのか、わかんないことだらけなのだが、おもしろいからいいの。

個人的なことだけど、自分の仕事まわりでLuísみたいなエンジニアには結構会ったことがある。90年代の中頃の中南米で、ああいうアクセス管理の仕組みって盗難が多い南米では普通に必須で、でもドアの鍵の延長みたいなものだから安けりゃいい動けばいいくらいのも相当あって、そういう半端な位置づけのやつだからオフィスの引越しとかがあると必ず問題が出て動かなくなったりして、でも誰も中味とか押さえていないので、エンジニアを呼ぶしかない。そうしてやって来る彼らはだいたい町の電気屋さんと同じふうでITなんか知るかよ、みたいに半端で適当で。映画にあったみたいに閉じ込められてどーしよ、になったことも結構あった。いろいろあったなー(本書けるとおもう)。彼らも変わらず元気でいますように、とか。

どうでもいいけど、Covid-19対応で世界に露わになった日本のITの遅れ(ものすごく。遅れている)って、この世界に近いと思う。こんなのにそんなにお金かける必要ない、とか、費用対効果、とか、中味のわからない/わかりたくないどケチじじい共が念仏のように唱え続けた結果が今の日本のITだよ。デジタルなんてちゃんちゃらおかしいわー。(←いろいろあったらしい)


"TENET"みてきた。 あんな面倒くさくなる世界の終わり、はじめてみた。

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