8.26.2020

[film] Hope Gap (2019)

 23日、日曜日の昼、Curzon Mayfair - 映画館 - で見ました。メンバー向けのPreviewで客は3人くらい。丁度ひとつ前に書いた”Things to Come”のテーマと近いかんじがしたので、ついでに書いておく。映画としては”Things to Come”の方がだんぜん。

作・脚本・監督は”Gladiator” (2000)の脚本や“Les Misérables” (2012)のアダプテーションをしたWilliam Nicholsonで、自身の舞台作品 - ”The Retreat from Moscow” (1999)を映画用に脚色したもの。

英国のイーストサセックスの海岸沿いの町Seafordの一軒家にGrace (Annette Bening) とEdward (Bill Nighy)の夫婦が暮らしている。結婚して29年で、Graceは詩のアンソロジーを作っていて、Edwardは高校の歴史の先生でWikiの編纂とかもしていて、居間でふたりで仕事をしている時はEdwardがGraceにお茶を淹れてあげたりしている。

ある日、都会に暮らす一人息子のJamie (Josh O'Connor)がやってきて、久々に家族での再会の場になったのだが、そこで突然Edwardが好きな人ができた、別れたいって言う。Grace には寝耳に水のことで、うろたえて泣きだす…  のではなく、29年間ずっと一緒にいて何を言いだすのか、って恫喝調で詰め寄っていくとEdwardは29年間我慢してきたんだ、って返して、それならなんでこれまで何も言わなかった、なぜいま言う? って(GraceがEdwardを)ビンタ、とか(Graceが)でっかいちゃぶ台返しとかの修羅場が展開されて、Edwardはその翌日にひとり静かに出て行ってしまう。

かわいそうなのが間に残された/挟まれたJamieで、自分のことだってあるし、これは夫婦の話だからどちらか一方に味方するのも難しい - ということがわかるくらいには大人なので - 自分のフラットと実家を往復しつつ、孤独から不安定になっていく - 家の近所にはちょうどよい崖がある - 母Graceの文句やグチに付き合って、父Edwardとも会って話を聞いて、を繰り返しつつ自分が子供の頃3人で手を繋いでいた頃のことを思いだして涙ぐんだりしている。

これはもう俳優の映画で、サディスティックにアグレッシブに自分を正しいと信じて疑わない -  “Captain Marvel”のSupreme Intelligenceみたいな - Grace : Annette Beningと、落ち着いていて慎ましく一見おどおどしているものの絶対曲げない曲がらないEdward : Bill Nighyと、やさしいので言われることを全部受けとめつつも何ができるっていうんだよ… って空を見あげるよいこのJamie : Josh O'Connorと、登場人物全員が彼らに期待されている雰囲気や仕草を、素敵な色使いの英国ファッションに包めて全開にしてくれるのでとっても心地よい、見事な室内楽のアンサンブルを見て聴いているかのよう。

Graceにとってこの出来事は、“Things to Come”といえるような来るべきなにか、ではなくて突発した事故のように到底容認できない信じられないそれで、どこまでも怒りが収まらずに犬を飼ってそいつにEdwardという名前を付けてしまったりもするのだが、彼女の怒りもそれに続くGraceとEdwardの攻防についても、最初の方の口喧嘩で示されているようにあまりに唐突すぎて、ちょっと不自然なかんじがする。細かな不満やちくちくが蓄積していった挙句の―、というのがわかるのは冒頭のEdwardがGraceにお茶を淹れてあげるシーンに漂う空気くらいなのだが、あれが夫婦の29年間を突き崩す程のものになるとは思えなくて、そっちよりは噴きあがって止まらないGraceの怒りの方がクローズアップされすぎているような。

舞台版からのアダプテーションと監督を女性がやっていたらおそらく全然違ったトーンのものになったであろうことは容易に想像がついて、やられてばかりでどうみても同情を集めそうなBill Nighyが実は..  にした方が深みもでて絶対おもしろくなったはずなのに。

結末はよくわかんなくて、Graceはもともと詩のアンソロジストなわけで、場面場面で読むべき詩なんていくらでも頭に入っているでしょうに。ここも“Things to Come”と対比してしまうとなんかねえ..

で、この件で落ちこんでしまったJamieを元気づけるために、Edwardが秘伝の時間遡りの術を伝授するのが”About Time” (2013)なのね。 で、これを世界征服に使おうとして大騒ぎになるのが”TENET”なのね。 すべてはAnnette Beningの怒りからはじまっているのね。

邦題を考えるひとは「希望」を使えるって喜んでいるかもだけど、希望も未来も1mmもないやつだから。


LFF2020のClosing Filmが”Ammonite”になったって。 それまではがんばって生きたい。

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