8.23.2020

[film] Clemency (2019)

 15日、土曜日の晩、BFI Playerで見ました。
とても重いテーマの作品であることはわかっていたのだが、やっぱり見た方がいいよね、と。
昨年のサンダンスでUSドラマ部門のGrand Jury Prizeを受賞している。

女性の刑務所長のBernadine Williams (Alfre Woodard)が死刑囚の死刑執行をするところから。全身を処刑台のベッドに固定して、血管に管を通してそこから薬物を注入するのだが、うまく血管に管が通らずに現場がちょっとしたパニックになって、ここだけでものすごく怖くてこっちも死にそうになる。

それ以降、Bernadineは仕事や家庭のことに集中できず魂が抜けたようになってしまうのだが、この次はずっと無実の罪を訴えているAnthony Woods (Aldis Hodge)の執行の件があり、所の外では彼の死刑執行反対を訴える抗議の声が連日響いているし、彼の弁護をしている弁護士のMarty (Richard Schiff)もがんばっているがもう疲れたのでこれを最後に引退するというし、夫も彼女のことを心配するもののなにをしても言っても彼女が上の空なので家を出て行ってしまう。

初めは諦めと自棄から無愛想だったAnthonyもかつての恋人と面会して彼との間の子供がいることを聞くとやはり生きたい - 自分は無実だ、と訴えるようになって、Bernadineは同僚と州への訴えを諦めないようにして、Martyは最後の手段で公開で州知事への恩赦を求めて、でも結局は刑執行までの時間の問題で、彼女は最後まで州政府に最後の慈悲(Clemency)の通知を待って時計を見つめて。

Bernadineは死刑執行の現場で法に則った執行がされることを見届ける責任はあるが、司法判断そのものについてはどうすることもできない。使命感を持ってこの仕事をやってきた彼女は仕事を辞めることまでは考えないようだが、でも、だからこそ自分がやっている/やろうとしていることは道から外れたこと - 法による殺人ではないか、と思うようになる(明確には語るわけではないが)。

どうなるかわからない状態でAnthonyが処刑室に入ってから経過していく時間の流れとBernadineのテンションの描写がすさまじくて、これは公的機関が計画的に実行する人殺しに他ならないことを思い知る。 ここには仕事であれ人を殺すということの生々しい恐怖がむき出しで、ある。恐ろしい。

死刑制度は現代においては戦争と同じくらい野蛮なことなので廃止すべき、それはつまりこういうことだから、と執行現場の人々の実情を明らかにする。実際に起こったこと、ではないが監督・脚本のChinonye Chukwuさんは2011年に執行されたTroy Davisの件にインスパイアされていて、主演のふたりは実際に刑務所長と死刑囚に聞き取りをした上で制作に入っている。

悲惨な事件が起こると被害者の家族と加害者の家族双方を嬉々として待ち伏せ取材し、死刑当日はそれをショーにして視聴率を取ろうとする人権感覚ゼロのメディアを従える日本では難しいのかもしれないが、入管の長期勾留問題にしてもこれにしても、与党と世論を後ろ盾にそのまま放置しておくとほんとうに国際社会から取り残されるよ(もう手遅れかも。 技術も経済もだめだし)。道から外れた隣人とか異論を語る異人を除けものにしてヘイトで見えなくして仲良しで固まって幸せだった時代は戦前(75年前だけど)で終わりにしないと。ダイバーシティとか言ったってぜーんぶただの掛け声倒れでやる気ないし、そもそも意味わかってないとしか思えない。

死刑廃止、っていうと「自分の家族が殺されても平気なのか」とか言うバカ(含. メディアの煽り)が必ず現れるけど、これは「中国や北朝鮮が攻めてきたらどうするんだ」と同じレベルのバカのすり替えだから。今の時代の倫理と制度のことだから間違えないでね。 死刑をぜんぜん止めるつもりがない、議論すらやろうとしない、これってヘイトの放置と根は同じで、だからわたしはいまの日本が本当に嫌い。

日本でも公開されて、少しでも議論のきっかけになりますように。人の命が掛かっていることだから。


BBC2でTop of the Popsの夏のベストをやってた。 この番組は基本口パクなのだが、だからといってStyle Councilの”Long Hot Summer”のてきとーさ、Fun Boy Threeの”Summertime”のTerry Hallの呆けたような暗さに改めて笑った。 The Sundaysの”Summertime”は、いつ聞いてもよいねえ。


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