16日、日曜日の晩、Lincoln CenterのVirtual Cinemaで見ました。リストア(リストレーションは2作ともPedro Costaが監修しているのね)されたPaulo Rocha作品 - 一週間前にここで見た”Os Verdes Anos” (1963) - “The Green Years”の後に配信されている監督第二作、英語題は”Change of Life”、邦題は『新しい人生』。 これもモノクロの映像が美しい。 音楽は前作に続いてCarlos Paredes。
“The Green Years”は19歳の若者がリスボンに職を得て都会に出て行く話だったが、これは長いことアンゴラに戦争に出てそこでそのまま働いていたAdelino (Geraldo Del Rey)が故郷の漁村に戻ってくる話。
かつて恋人だった女性は弟の妻となって生活に疲れていて親しくしてもぎこちないし、両親も老いて疲れていて、かつての自分の家とはどこか違っていて、落ち着くことができない。仕事で船に乗って沖に出ても豊漁とは言えなくて、しかも腰が痛くなって続けられそうにない。
このままここにいたらダメになってしまうどこかに移ろうか、ってどんより彷徨っていると教会で賽銭泥棒をしようとしているAlbertina (Isabel Ruth)と出会って、初めは野良同士で睨み合っているのだが、だんだん近寄っていって、彼女もこの村には絶望しているので一緒にどこかにー、となるのだが…
若者が都会の大きさ、無頓着さに触れて愛と苛立ちの両方を抱えて膨れて弾けてしまう”The Green Years”に対して、中年男が小さな貧しい漁村で疲れと諦念で動きようがなくなって、どこかに行こうとする(でも行けない)今作は、いろんな点で対照をなしているかんじがして、でもどちらも生き難い、それは都会だから田舎だから、若者だから中年だから、肉体労働をしていて豊かになれないから、女性がしっかり自分の考えを持っているから、そのどれでもありそうで、どれでもないような、中途半端な世界で幽霊のようになって生きる男が中心にいるような。 彼らは - AdelinoもJúlioも、自分でそれなりのことを決められるなんとかできる、と思いつつ、実はなんにもできないままAlbertinaやIlda - どちらもIsabel Ruthが演じているのは偶然? - に振り回されて立ち尽くしているだけなのではないか。
なんとなく思い出したのはPedro Costaの“Vitalina Varela” (2019)で、あれは夫の死の報を受けたVitalinaが異国から死ぬ前に夫が暮らしていたリスボンのスラムにやってくる話だった。 夫がいなくなってしまったことを確かめつつ、穴倉のように荒んだ暗い場所で、彼女は抜け殻になるどころかどうしようもないくらい圧倒的に生きてしまう - 『新しい人生』どころじゃない静かな強さと勢いでなにかを取り戻すの。
もういっこ、この3つを見て思うのは社会や住む場所のリアリズムって、なんなのかしら? って。50年以上時間が経つとそこで映される都市の様子も社会のありようも変わってしまうのは当然としても、それらって登場人物の背景以上に彼らの生を映しだしてしまうなにかなのではないか、とか。
Paulo Rochaのシリーズはこれで終わりなのかしら? もっと見たいなー。
ここのとこ、夕方から冷えこむようになって、上着がないと寒いくらい。もう秋なんだねえ。暑さがなくなったのは嬉しいけど、日が短くなってきたのは寂しい。そして今年の夏っていったいなんだったのか。
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。