6.17.2012

[film] Adieu Gary (2008)

先週9日の土曜日、雨のなか横浜に出ていって見ました。
横浜日仏学院シネクラブの、こないだの『森の奥』に続くやつ。
低気圧頭痛がひどかったので上映後のトークの前に帰った。

『さよならゲーリー』。 英語題は、"Goodbye Gary"もしくは"Goodbye Gary Cooper"。
2009年のカンヌ国際映画祭批評家週間でグランプリを受賞している。

冒頭、「帰り道はわかる?」「弟が迎えに来ているので大丈夫です」というような会話のあとで、乗り物に乗ってトンネルのなかを走っているとこを車内から撮っているシーンがしばらく続き、え、なにこれ? みたいなかんじになる。
明らかに線路の上を走っているのだが、これは車で、先っぽにメルセデスのあれがついてるし…と思っていると、そいつは外の世界に出て、線路から降りる。どうも廃線になった線路の上を4輪車で走れるように改造しているらしい、と。

乗っていたのは刑務所から出所したサミールとその弟で、家には父が待っていて、父と仲のよい近所のマリアとか、その息子(殆どしゃべらず、大抵外でぼーっとしている)とか、アラブ系コミュニティのいろんな人たちがいる。
出所後で働き口もないサミールは、弟も働いているスーパーマーケットで店員として働きはじめるが嫌気がさしてやめてしまう。
彼の焦燥や苛立ちがどこかで爆発するか、というとそうではなくて、家族やコミュニティのいろんな動きや光景のひとつとして描かれ、全体としてはさらっとした青春映画のようなかんじ。

父親とMariaの恋、工場でひとりひたすらなんかの機械(なんだろ、あれ)を動かそうとしている父親、車椅子の小人を介して行われている怪しげな取引、コミュニティから出ていくひと、入ってくるひと、なにかが始まるのかも、などなど。 たった75分のフィルムとは思えないくらいに入っている要素は多彩でおもしろい。

「アメリカ」というのもあって、ゲームソフトのなかで、アラブのテロリストをやっつける正義のアメリカ、とか、バイト先のスーパーでくだらねえプロモーションを強いるアメリカ、とか、そしてMariaの息子がいつも見ているDVDの映画に登場するGary Cooperに象徴されるかっこいいアメリカ、もある。

でもこれらのアメリカと正面から衝突するわけではなく、"Adieu"と告げて自分たちの世界に戻る、という。 
かんじとしては『サウダーヂ』に似ていないこともない。ただ、『サウダーヂ』が自分たちのほうになにかをたぐり寄せようとする感覚や情動に連動した動きを追っていったのに対し、こっちはもっと落ち着いて、淡々と地場の活動に入ってその動勢を見つめていく、というか。 どちらもあっつい夏の物語ではあるの。

監督のNassim Amaoucheさんはパリ大学で社会学を専攻していたそうで、あーそういうかんじかも、と思った。

サミールを演じたYasmine Belmadiさんは、素晴らしい存在感をもった役者さんなのだが、この作品の公開4日前に交通事故で亡くなられていることを知った。 続編があってもおかしくない作品なのに、残念でなりません。

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