1.26.2024

[film] The End We Start From (2023)

1月21日、日曜日の晩、CurzonのBloomsburyで見ました。

パリをずっと走り回っていたその翌日に映画3本続けて見るのはきつい、とも思ったのだが、日曜の晩てお店もみんな早く閉まっちゃうからすることないの。つまんなかったら寝ちゃってもいいや、って。 - でもこれは眠れるようなもんではなかった。とてつもない緊張感の渦が。

監督はMahalia Belo、Megan Hunterの同名デビュー小説(2017)を”Lady Macbeth” (2016)、”Normal People”(2020) のAlice Birchが脚色している。原作権を買ったのは少しだけ出演もしているBenedict Cumberbatchだそう。 登場人物たちには名前がない。Cast表の役名はAとかBとか”Mother”とか。つまり意味するところはー。

どこかの一軒家で、Jodie Comerが入浴しようとしている。バスタブの中でお腹ははちきれそうに丸くでっかく、彼女はその丸みに向かってハローとか声を掛けたりしている。外はずっとざーざーの豪雨が続いていて暗くて、大丈夫かしら、と外を見たりしていると破水が起こり、それに合わせるかのように洪水により家の中への浸水が始まり、近辺一帯がパニックになっていることがわかる。夫(or パートナー?)に電話をしても出ないし救急車の方にも当然繋がらず崩れおちて、次の場面ではどうやって助かったのか、病院のベッドで彼女の傍には赤ん坊がいて、夫とも連絡が取れたらしく彼女の横にいてくれる。(この辺の事情や顛末についてはうまく抽象化できていると思った)

でも、病院のなかも当然大混乱が続いていて、時期が来たら退院しなければならなくなり、大雨のなか車で家に帰りつくが食料も今後も心配なので、少し離れていて被害も少なそうな夫の実家の方に行くことにする。道路は軍によって閉鎖されて先に行けなくなる心配はあったのだがすぐそこに実家があるから、ってなんとか通してもらう。義父母(義父はMark Strong)はやさしく迎えてくれるのだが、ここも食料が少なくなってきたので、夫と義父母は銃を携えて車で食料の調達に向かう(どこも食料が不足して軍が出ているものの飢餓状態での泥棒や略奪が茶飯事になっている、という設定)。 と、彼らが戻ってきた時に義母の姿はなく、みんな打ちひしがれていて、やがて義父は自殺し、夫も自分は君を守ってあげることができないのが辛い、とどこかに消えてしまう。

仕方なく赤子を抱えて避難所 - 日本スタイルの雑魚寝形式 - に向かって、そこも全員がぴりぴりで男性が突然怒鳴ったりしていて怖いのだが、同じくらいの子供を抱えたKatherine Waterstonと仲良くなって心強くて、でもそこにも食料狙いの襲撃が入ったりするので、二人(+赤子二人)でそこを出て野宿をしながら - 途中でBenedict Cumberbatchと出会ったりしつつ - Katherineの家族がいる離れ島のコミューンに向かって…

突然の豪雨災害に襲われて家を失った(夫はいるもののほぼ役立たずの)赤子を抱えたひとりの女性が遭遇するであろう恐怖 - 飢餓の、略奪されるかもしれない、暴行されるかもしれない、子供になにかされるかもしれない、等に直面して緊張と共に段々に疲れてすり減っていく女性/母の姿をJodie Comerがものすごくリアルに演じている。

還るところを失いひとり疲れきった彼女の頭に何度もよぎるのは夫とクラブで出会った頃の甘い記憶で、自分をひとりにして逃げた頼りなくてひどい奴なのに、なんでか浮かんできて、その辺にもなんかきっと、そういうものかもしれないなー、という妙な生々しさがある。

自然災害によりパニックに襲われた凄惨な現場と、そこで生じた混乱をどうにかしようと(or 生き延びようと)する人々(政治家、軍、救命隊、いろんな人々)を多面の群像劇として描くのがこれまでの定型だった(あんま見たことがない&見る気もしない)のだろうが、これはそういう不安定な中で突然赤子と共に一人放り出されてされてしまった決して強くはないひとりの女性の視点にフォーカスして、それがどれくらい怖く恐ろしいものなのか、を描いていて、それはそれは生々しく本当にありそうなので震えるしかない。

ちょうど北陸であのような震災が起こって多くの人たちがまだ避難生活を強いられている中、そしてその様子を外から見ていて、そのあまりに人でなしの政府や自治体の対応を見たり聞いたりするばかりなので、ここで描かれた理不尽で暴力的で怖い男たちや決して守ってはくれない組織の姿はちっとも他人事ではないし、自分の身は自分で、なんてボケた為政者の戯言でしかないなー、って。

人によっては思いだしたくないなにかを突いてしまうであろうから公開については慎重になるべき、と思う反対側で、能天気な政治家連中には見てほしいもんだわ。

Jodie Comerさんはほんとうにすばらしいったら。

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